1755話 アメリカ・バス旅行1980 その2

 グレイハウンドバスに乗っているのは、貧乏人と軍人と旅行者だった。有色人種率は高かったと思う。あのころのバスの車内風景が脳裏に浮かび、思い出すことがいくつも沸き上がってきた。

 運転手は出発のアナウンスのあと、必ずしゃべていたのは、「タバコ以外のモノは吸わないようにね」と「ラジカセの再生禁止」だった。でっかいラジカセを肩に担ぎ、大音量で音楽を流すのが流行っていた時代だ。

 タバコは吸ってもよかったのか、たしかな記憶はない。「タバコとタバコ以外のモノも吸わないように」というアナウンスだったかもしれないが・・・。後部座席限定で喫煙可だったのかどうかの記憶もない。当時、私はヘビースモーカーだったから、長時間タバコを吸わずに過ごしたとは思えないから、おそらく喫煙可だったのだろう。

 そんなことを考えていたら、思い出した。車内「喫煙可」だったのだ。サイモン&ガーファンクル「アメリカ」(1968)は、グレイハウンドバスに乗ってミシガン州からニューヨークに向かう若い男女を歌っている名曲なのだが、そこにタバコが出てくる。

 “Toss me a cigarette, I think there’s one in my raincoat”

 “We smoked the last one an hour ago”

 この歌は旅心を刺激するので、歌詞や背景に興味のある人は、ココを。

サイモン&ガーファンクルからの連想で、「卒業」のラストシーンはグレイハウンドだったかなと思い、映像を確認すると、路線バスだった(画像を即座に確認できる便利な時代だ)。ダスティン・ホフマンからの連想で、「真夜中のカーボーイ」(1969)のラストシーンを思い出した。ニューヨークからフロリダに向かう長距離バスに乗っている。そのラストシーンをネットで見ることができるのだが、バス研究者ではない私には、ちょっと見ただけではグレイハウンドであるかどうかの確認はできなかった。長距離バスはグレイハウンド以外にもあるから。映画に登場したバスの会社がどこであれ、車内でタバコを吸うシーンがある。1969年当時は喫煙可だったことがわかる。

 グレイハウンドバスといえば、その昔の「99日間、99ドル」という割り引き料金の宣伝を覚えているが、私が旅するころにはそういう割引切符はなかった。その99ドル割り引き切符以後、乗り放題の日数が短くなり高くなっていったというところまでは知っていたが、今調べてみたら、その種の大幅割り引き料金はなくなっている。今は、グレイハウンドのほかに、メガバスやボルトバスといった会社も参入しているので、利用しやすくなっているが、いちいち切符を買わなければいけないのが面倒だ。

 私がバス旅行をしていたころの長距離バス事情を詳しく知りたくなった。

 ウチのガイドブック・コレクションの棚から1980年前後の『アメリカ』を取り出して、読んでみる。古本屋で昔の旅行ガイドを見つけ、価格が二束三文だと買っていた時代がある。

 ガイドブックに高距離バスの料金が出ている。少し書き出してみる。1980年前後の為替レートは1ドル230円くらいだ。

 ニューヨークーワシントン  4.5時間   19.05ドル

 ニューヨークーシカゴ   17.5時間       61.25ドル

 ニューヨークーボストン    5時間            17.65ドル

 ニューヨークーナイアガラ  12時間    35.15ドル

 外国人旅行者向けに、アメリカ国内では購入できない格安切符がある。グレイハウンドにはAMERIPASSという乗り放題切符がある。私はこの30日間有効のアメリパスを2冊持って、日本を出た。「2冊」というのは、15枚綴りの切符引換券が1冊になっていて、15枚使うと期間内有効のパスをまたくれる。

 15日間有効・・・195ドル(82年には、206ドル)

 30日間有効・・・325ドル(82年には、342ドル)

 この30日有効切符は、日本円にしたら74750円。「1~4月のオフシーズンには30~40ドル割り引き」という注もついている。かすかな記憶では、西海岸から東海岸にいっきに移動するなら、時と場合によっては飛行機の方が安いことがあった。現在は、飛行機の方が確実に安いだろう。試しに、ニューヨークーロサンゼルスの7月出発片道料金をネットで調べると、安いのは25000円くらいからある。同じコースをバスで移動したら料金はいくらか? グレイハウンドのホームページで料金を調べると、209~260ドルだ。1ドル125円として日本円にすれば、26125~32500円ということになる。バス料金はこのくらいだが、航空運賃は探せばまだまだ安い切符があるはずだ。

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