1775話 経年変化 その6

 

 今回は、食べ物の好みの変化の話をしようか。毎日のことだから、話はいくらでもある。

果物

 まずは、果物の話から始めるか。少年時代、柿の産地である奈良の山奥に住んでいた。ウチの庭にも柿の木があり、毎秋、たわわに実った。その季節になると、おやつは毎日柿で、友達の家に行っても柿を出され、10歳にして「もう生涯分の柿は食った」と感じで、以後柿を食べる事はなくなった。この話を奈良時代の友人に話すと、「私も、そうだった」というから、ミカンの村やリンゴの村などで育った子供たちに共通する感情なのかもしれない。

 そんな柿だが、買ってでも食べるようになったのは、ここ10年くらいからだろうか。特に何かのきっかけがあったわけではなく、スーパーマーケットで柿を見ていたら、「うまそうだな」と思っただけのことだ。それ以来、年に数回は柿を食べるようになった。

 私がタイで生活していた1990年代、タイでいちばん高い果物はドリアンではなく、輸入果物だった。熱帯のタイではリンゴは育たないから輸入に頼るしかないのだが、ニュージーランドから安いリンゴが入っていたから、高価な果物というイメージはない。私の調査では、もっとも高価だったのが、日本から輸入した柿だった。今では、日本からとんでもなく高い果物が輸入され、日本人が千疋屋で桐箱入りの高額果物を買うように、タイ人も数千円・数万円の果物を買うようになったから、柿だけが高級果物というわけではなくなった。

 そのタイで、熱帯の果物をひと通り食べたが、「これはうまい」と思うベストはなんだと、タイ在住十年以上の友人たち話していたら、偶然にもみんな同じ意見だった。「やっぱり、バナナがいちばんうまいよな」だった。バナナは飽きないのだ。

 自転車の荷台に冰入りガラス箱を乗せた移動果物屋が住宅地にも入ってきて、よく買った。品物はどこも大体同じで、マンゴー、パパイヤ、スイカ、パイナップル、グアバくらいで、私はパパイヤかスイカを買うことが多かった。パイナップルは、ノドが「いがらっぽ」くなるか、ベタベタに甘いかで、好んで食べることはなかった。

 台湾のパイナップルが中国の嫌がらせで輸出できなくなり、代わりに日本が輸入するというニュースは知っていたが、つい最近、近所のスーパーで、その台湾産パイナップルが山積みだった。もともとパイナップルには関心はないから、台湾支援という名目はあっても買う気はなかったものの、その山に近づいたら、「マンゴーパイン」というラベルが見えた。マンゴーの香りがするパイナップルということらしい。ちょっと前には「アップル・マンゴー」が話題になり、桃やパイナップルの香りがするイチゴもあり、その類なんだろうと思ったが、おもしろそうなので買ってみた。フィリピン産が480円、台湾産マンゴーパインは680円だった。

 食べてみれば、かすかにマンゴーの香りがする。パイナップルの弱点だった「いがらっぽさ」はない。「これはうまい」という感想だったので、ネットで情報を集めると、「芯までうまい」というのがウリだという。そんなことは知らないから、従来通り、芯は削って捨てた。

 あまりにうまかったので、数日後にまた買いに行ったら、「マンゴーパイン」はすでになく、「木熟パイン」のラベルがあり750円。フィリピン産は290円からある。別の店で、フィリピン産パイン480円を買った。「台湾産より落ちるが、それほど悪くはない」という印象だった。それ以後、週に1回程度は台湾産パインを買っている。芯はやや硬いが、食べられる。わが生涯で、こんなにパイナップルを食べたことはない。まだ飽きないが、近所のスーパーから台湾産パイナップルが消えている。

 上の原稿を書いて10日。今日、近所のスーパーで久しぶりに「マンゴーパイン」を見つけた。ソフトボール大と小さく、390円だった。あまりに小さいので買わなかった。