1781話 経年変化 その12

 

コーヒー

 10代によく飲んでいたのは、水道の水で、たまに緑茶を飲んでいた。20代に入って喫茶店に行くことを覚え、コーヒーを飲むようになり、自宅ではインスタントコーヒーを飲むようになる。途中、布袋やサイホンや紙フィルターのドリップコーヒーを試し、ジャーマンローストの豆を買うようになる。紙フィルターなら面倒はないが、1日に何杯も飲むには強すぎて、砂糖もミルクも入れずにがぶ飲みするにはインスタントコーヒーがベストチョイスということになり今日に至る。タイで売っているネスカフェは、日本で売っている同じ商品とは味が違い、焙煎がきつい香りがして、私の好みに合っている。だから、タイから帰国するときはいつも1キロほどのネスカフェを買って帰っていた。ただし、その値段は日本のスーパーの特売価格と比べて、それほど変わらないものだった。

 日本の日常は、モーニングカップに、ティースプーン山盛り2杯のネスカフェ・エクセラを入れ、熱湯を注いだコーヒーが私の好みだ。特にうまいとは思わないが、がぶ飲みするのはこういうコーヒーがふさわしい。

 ケニアで1年ほど暮らそうかと計画を立てたとき、コーヒーをどうするかいろいろ策をめぐらした。というのは、ケニアはコーヒーの産地ではあるが、そのほとんどを輸出に回し、ケニア人は紅茶を飲んでいるという情報を帰国者から聞いていたからだ。食堂の壁に張り出したメニューに、インスタントコーヒーの「アフリカフェ」の表示を見かけたことがあるが、その値段は豆を挽いたコーヒーよりも高かった。

 ケニアは元イギリスの植民地で、インド亜大陸からの移民も多いので、主流のカフェイン飲料はインドのチャイなのだ。砂糖とミルクをたっぷり入れた紅茶だ。スワヒリ語でもチャイという。

 インドでチャイをよく飲んでいて、もちろん好きな飲み物だが、アフリカに行く頃は、コーヒーの方が好きになっていた。べたべたに甘いチャイは、うんざりすることがあるのだ。

 キャンプで使うコンロ(ガソリンストーブという)を持って行こうか考えたのだが、荷物が増えるのが嫌で、持っていくのをやめた。ところが、香港で会った日本人旅行者が、「帰国するから、欲しいものがあれば何でもやるよ」といって荷物を広げたなかにガソリンストーブがあった。ありがたく頂いたのだが、ケニアに着いたら、ホワイトガソリンを買って湯を沸かすのなんて面倒で、バッグから取り出すことはなかった。毎日宿近くの食堂でチャイを飲んでいると、コーヒーに対する欲望はかなりおさまった。

 ナイロビを散歩していれば、高級ホテル以外にもコーヒーが飲める場所があり、数か月に1度くらい飲みに行ったが、高いこともあって、それで満足していた。

 どこか外国で暮らすとして、アルコール飲料がなくてもまったく困らないし、コーラやジュースもなくてもいいが、カフェイン飲料がないとつらい。そうなれば、インスタントコーヒーか茶葉を持っていくことになるだろう。