1782話 経年変化 その13

 

◆植物

  昔は、いっさいの植物に興味がなかった。正確に言えば、「食べられない植物」、つまり切り花とか盆栽とか、観賞用の植物にはいっさい興味がなく、花の名前も知らなかった。

 ある年のこと、台所の冷暗所に保存していたジャガイモが芽を出していて、「これは食べないで、増やした方が得だな」とひらめいて、何かで見たか読んだかの知識で、ジャガイモの断面に灰をまぶして、庭に植えてみた。夏になり、掘り出してみると、ビー玉くらい小さいのから握りこぶしくらいのまでのジャガイモが、地中から姿を見せた。種芋の3倍程度の収穫しかなかった。それ以後、野菜栽培を試みるようになった。遅い春になると、ジャガイモ栽培は続けるものの、ホームセンターの植物売り場に行って、苗を探す。タネの方が安いのだが、ごく狭い場所だから、タネが50粒もあっても困る。

 そのころ店に並ぶ苗は、トウガラシ、ピーマン、シシトウ、トマト、ナスなどナス科植物が多く、ナス科以外ではシソとオクラと・・・という具合に「食べられる植物」を探す。小松菜や白菜などなっぱ類は虫にやられる気がするので、敬遠している。畑にした花壇は、日当たりが悪い。

 ナス科植物ばかり植えていると連作障害が起こりそうだからと別の植物をと考えるのだが、菜っ葉でも根菜でもなくと考えるとオクラくらいしか思い浮かばず、栽培に失敗すると悲しいが、豊作で毎日オクラを食べるのも飽きるし・・という園芸生活をしている。

 毎年かならず栽培しているのがシソだ。だから、夏はソーメンでも漬け物でも、なんにでもシソを使う。ただし、市販のシソと比べると香りが薄くゴワゴワしていて、あまりうまくない。ネットで調べると、「そりゃ、素人の栽培など、プロが選ぶ苗と栽培技術に勝てるわけはない」という記述があり、そんなもんかと納得。

 ミョウガの根をもらったので植えてみると、竹のように根を伸ばし、毎年ミョウガにありつける。あまり好きではなかったが、タダでいくらでもできるのがありがたく、夏はシソとミョウガの季節になる。ミョウガは塩漬けがうまい。

 バジルも栽培したことがあるが、あまりにできすぎて、バジルペーストなどにもしたが、食べきれず、捨てることになったので、以後の栽培はしていない。

 こうして毎年夏には野菜を栽培するようになったが、夏以降に栽培できそうな野菜が見つからず、しかたなく花に手を出した。しばしばホームセンターに行くようになり、ランタナカランコエそしてフクシアなどが気に入った花となり、自宅で鉢植えにしている。リンドウの青も好きで、何度も買っているのだが、ウチに持ってくると長生きしない。

 「年をとると、盆栽に手を出し・・・」などというイメージがあり、実際にそうなのだが、ミニ農業なども加えると、やはり中高年から始める人が多いのかもしれない。それは、生活に多少時間的余裕ができたからかもしれない。若いころは、朝家を出て深夜帰宅し、休日などほとんど家にいないという生活をしていると、花や庭の雑草にも目が行かない、見えても見えない状態だからだろう。

 そしてもうひとつ、歳を重ねると、「命が愛しい」という感情もあるような気がする。毎年同じ花を見ることができる喜びを感じる年齢になったということだ。かつて、そういうのを、「あ~、年寄り臭くて嫌だいやだ」と思っていたこともあったが、友人知人の死や自分の病気を考えて、「今年もムクゲを見ることができた」と、素直に喜ぼうと思う。