◆本を買う その1
「読書」(1771話)でしていなかった話を思い出した。「本を買う」という行為の変化だ。
小学生時代は新刊書店で買った。中学生になると神田神保町に行くことを覚えたが、カネはないのだから「しょちゅう通う」というほど足を踏み入れたわけではない。高校時代になると、神保町の古書店街でワゴンに入っている50円100円均一の格安本をまとめて買うようになったから、本の購入量は、新刊と古書は半々くらいになったかもしれない。
ライターになっても、その比率はあまり変わらなかったと思う。原稿を書くのに必要な資料は、せいぜい数冊あればいいという程度の原稿だから、基本的にその時に読みたい本を適当に買っていた。だから、それほど多くの本を買っていたわけではない。
1980~90年代に入り、東南アジア関連書や食文化の本を買い集めるようになり、東南アジアの新刊本は神保町のアジア文庫で買っていたが、戦前戦中から1960年代あたりに出版された本は古本屋をていねいに歩いて探した。
1990年代までは、新刊情報は書店に置いてある冊子「これから出る本」をチェックしていた。私の関心分野以外の図書はそうやってチェックしていたのだが、2000年代に入り、パソコンを導入し、新刊書も古書もネット書店で調べるようになった。新刊は大書店のホームページで調べた。ネット古書店もぼつぼつ姿を見せていた。資料によれば、アマゾン日本語サイトは2000年から本を売っていたというのだが、その当時はまだ新刊書だけだったのではないか。やはり資料では、アマゾンのマーケットプレイス開設は2002年だそうで、私がパソコンを買ったのがその年だった。
2005年ごろを想像してみる。仮に、1年に100冊本を買うとすると、15冊は新刊書店、5冊はブックオフ、神田の古書店で50冊、アマゾンなどネット書店で30冊というくらいの比率だった。新刊書をあまり買わなくなったのは、読みたい新刊書があまりなく、資料になる本を探すとどうしても古い本が多くなったからだ。30代くらいまでの読書は、基本的に「おもしろそうだ」と思う本ならなんでも買っていて、それに加えて深く興味のある分野の本を買っていくというものだったが、しだいに関心分野の求める資料が深くなり、その分、種々雑多な本をあまり買わなくなり、新刊書店は雑誌・文庫・新書程度しか用がなくなった。新刊書でも普通に手に入らない本が欲しくなり、例えばアジア経済研究所の売店に買いに行くようになり、街の新刊書店との縁は次第に薄くなっていった。「時代に遅れないように」とか「世間で話題の本を読んでおかなければ」といった心がけをまったくしない。話題のミステリーとかビジネス本や自己啓発本やタレント本などの手を出さないから、新刊書の情報を集めて、真っ先に読もうなどとは考えていない。
池袋ジュンク堂や八重洲ブックセンターといった大書店に行けば、2時間以上遊んでいるが、「へえ、こんな本が出たんだ」とか「久しぶりにあの人が本を出したな」と思いつつ棚の本を手にするが、買うことはほとんどない。本も雑誌も、立ち読みはしない。立ち読みするくらいなら買うから、結局買いたくなるほどの本は書店ではなかなか見つからず、アマゾンで探すことになる。大学で授業をやるようになってからは、広い意味での旅行史関連の本を、週に3~4冊はネット書店に注文するようになり、現実の書店で本を選ぶことがますます少なくなった。