1813話 雑話の日々 その4

 

先行研究

 こんな研究をしている人はほかにいないだろうと思ったら、関連する論文がいくらでも見つかったというようなことを書いていたのは、ナマコの社会史研究に手をつけた鶴見良行だ。

 日本人の海外旅行史の研究をしていた時に気になっていたのは、「1964年に海外旅行が自由化された」ということは誰でも書いているが、「なぜ、そのときに?」という疑問に答えてくれる資料はなく、それが経済問題、国際問題なのだと気がつき、戦後日本経済史を読み、IMFが関係していることがわかった。簡単に言えば、戦後の弱小国日本が、経済発展して一人前の国家になったのだから、国民が外貨を自由に買えないといった制限をしていてはいけませんというIMF勧告を受け入れたということだ。そういう解説を『異国憧憬 戦後海外旅行外史』((JTB,2003)に書いた。経済の専門書ではなく、一般書でこういう解説をしたのは私が初めてだろうとうぬぼれていた。

 ところが、だ。関川夏央さんの10代20代の行動や思考が知りたくて、『昭和時代回想』(集英社文庫、2002年)を読んだ。雑誌に書いた文章を集めた本で、そのなかの「ああ、卒業旅行」というエッセイに、海外旅行自由化の行程を書いている。初出は「翻訳の世界」(1991年5,6,7月号)だというから、私が海外旅行自由化の過程に興味を持つ以前に、関川さんは調べて書いていたのだ。エッセイだから、どういう資料で調べたのか書いていないが、私のうぬぼれは完全にすっ飛んだ。

 NHKの人体研究番組「ヒューマニエンス 40億年のたくらみ」の「“塩” 進化を導いた魔術師」」を見ていたら、出演した研究者が、「人類は、塩、つまり塩化ナトリウムがないと生きていけない存在です」と言った。すぐさま、テレビの前で「違うね」とつぶやいた。アフリカやニューギニアや南米などに、塩なしで生きている人がいることはすでに知っている。この機会だから、『パプアニューギニアの食生活』(鈴木継美、中公新書、1991年)を注文した。この本のサブタイトルは、「『塩なし文化』の変容」だ。いままで塩なしで生きてきた人たちが、塩を口にするようになったという研究書だ。彼らは塩化ナトリウムは使っていないが、灰を加工した塩化カリウムを使ってきたというのが、真相だ。

大阪

 「地球の歩き方」は日本国内にも手を伸ばしているが、『東京』、『東京多摩地区』、『北海道』、『京都』、『沖縄』、そして『日本』が出ているが、散歩をすればあんなに面白い街はないと思う大阪が無視されている。JTBの図鑑式ガイド「ニッポンを解剖する」シリーズも、『東京』、『名古屋』、『金沢』、『北海道』、『京都』、『沖縄』はあるが、『大阪』はない。神社仏閣、名所旧跡、絶景名物の少ない大阪は、自分で歩いておもしろさを探す旅にはうってつけなのだ。大手のガイドブックは、何もしなくても「見どころ」がある場所しか扱わないのですよ。