1847話 時代の記憶 その22 消えつつある物事 下

 

 前回の続きと、消えそうで消えないモノ、あるいは復活したモノの話を書くことにする。

ステテコ・・・その名の起源が気になって調べたことがあるが、今もって納得できる説を見たことがない。舞台で「捨ててこ、捨ててこ」と言って踊った芸人が、着物の下に履いていた下着の名というのが「有力な説」とするのだが、それまではその下着に名前がなかったわけじゃないだろうし、明治にズボン状の下着が広く使用されていたとする説も納得がいかないのだが、服装史の専門家は納得しているらしい。

 私の世代では、おっさん&じーさんの誰もステテコを履いているのはあたり前で、しかし若者は「ダサイ」と思っていた。だから、植木等のステテコに腹巻にパナマ帽の姿は滑稽だったのだ。ステテコが、「おっさん臭い下着」から「快適な下着、部屋着」に意識が変わったのは2000年に入ってからで、2010年代には女性用ステテコがワコールやユニクロから発売されて今日に至る。

ふんどし・・・ステテコと並んで「おっさん臭い」と思われていたふんどしで、相撲の「まわし」、祭りの「締め込み」などは残っていたが、越中ふんどし六尺ふんどしは一部に愛好者はいるものの、ほとんど消滅していた。関係があるのかどうかわからないが、時代的にはステテコの復活と同じころ、2010年代に入って「女性用ふんどし」も発売されるようになり、フリーアナウンサー新井恵理那越中ふんどし愛好者と告白、やはりフリーアナウンサー本仮屋リイナはパンツ型ふんどしの愛用者だと公言している。

 日本ふんどし協会ベストフンドシアワードの初回は2011年。

 あれは1974年のインドの安宿だったともうが、ホテル内をランニングシャツとステテコ姿で過ごしている旅行者がいた。ネパールで会った旅行者は、元自衛官だといい、宿でふんどしを洗い、干しているところだった。「旅行中の下着は、ふんどしが最高。洗濯が楽で、すぐ乾く。手ぬぐいにもなる」という演説が、それなりに説得力があったが、感化された旅行者を知らない。

フロッピーディスク・・・山口県阿武町が、コロナ関連の臨時特別給付金4630万円をひとりに振り込んでしまったという事件があった。銀行が顧客リストをフロッピーディスクに残していたという報道に、「いまどき、フロッピーディスクはないだろ。日本がいかにデジタル後進国かを示すエピソードだ」という解説を加えたジャーナリストがいた。それには事情があるんだよと言うことを、私は数年前に知った。

 池井戸潤原作の銀行ドラマ「花咲舞が黙ってない」(2015)に、銀行の顧客名簿がフロッピーディスクに入っているというシーンがあって、「なんで、今時フロッピーディスクを?」という疑問があって、ネットで調べると、同じような疑問を持った人たちが多かったようで、解答が載っていた。それによれば、コンピューターに名簿があると流出することがあるが、フロッピーディスクならば、盗まれることはないから安全だということだった。しかし、もはやフロッピーディスクは生産していないそうで、その時代は終わりつつあるらしい。それはそうと、過日、家電専門店のDVD売り場の隅にMDが置いてあったのに驚いた。まだあったんだ。そういえば、家電店のDVD売り場はブルーレイが中心になり、DVDは隅で小さくなっている。

レコード・・・あれは1980年代だったか、90年代に入ってからかもしれないが、テレビで「風前の灯火のレコード針生産」という話題を報じていた。「レコードは、もうすぐ消える」というのが、レコードを知ってる世代の共通認識だったように思う。それが、「アメリカではDJが中古レコードを買い集めている」といったニュースがながれ、2000年代に入ってからだと思うが、渋谷の中古CDショップに中古レコードが並んでいるのを確認した。アメリカでは、CDの売り上げがレコードを上回ったのは1986年だが、2020年にはふたたびレコードの売り上げがCD売り上げを上回った。

 新旧CDを扱うディスクユニオンが、ユニオンレコード新宿を再オープンしたのは2010年代なかばごろだったと思う。開店してすぐに行ったときは外国人が何人かいたくらいだが、半月もせずに西洋人がぎっしり詰めかけ、マニアというよりもバイヤーという感じがするほどの大量購入をしていた。どういうレコードであれ、日本で発売されたレコードは保存状態が極めていいので、人気があるといい、昨今の円安だと大量に買いつけることだろう。外国で日本のポップ音楽が人気だという理由のひとつは、こうした中古店で手に入れた日本のレコードのジャケットデザインに感動し、英語のタイトルが入っていたり、歌詞に英語が入っている歌が好まれたということもあるのだろう。

 ブックオフも、レコードの買い入れ販売を始めた。