1854話 お茶やほかの飲み物の現代史 その4

 

 「旅と水」というテーマをずっと考えている。

 ここ20年ほどのヨーロッパ旅行の場合、数日以上滞在するとわかっている街に着くと、雑貨屋やスーパーマーケットで1500ccか2000ccのペットボトル入りの水を買う。その国に入った時から持ち歩いている500ccのペットボトルに適時、補給していくのがなかば習慣になっている。ショルダーバッグには、この水がいつも入っていて、暑い日だと、午後宿に帰ってひと休みした後、水を補給して午後の散歩に出る。

 ヨーロッパ旅行を始めたばかりのとき、価格だけで選んだ水がガス入り(炭酸ガス入り)で、がっかりしたことがある。ホテルの部屋ではふたを開けたままにして、ガスを抜いていたことがある。水を買うことに慣れてくると、ボトルを触っただけで、「ガスなし」か「ガス入り」かがわかるようになった。ガス入りはその性格上、ボトルが厚手になっているのだ。べこべこの貧弱なボトルなら、「ガスなし」の水だ。そういうコツがわかってくる前に、「ガス入りもまた、うまい」と思うようになり、ガスの有無は気にならなくなった。

 さて、ここで「旅と水」だ。

 1970~1990年代の私の旅は、行き先がどこであれ、水を買うことはなかった。買いたくても、アジアでは売っていないことが多かったのだ。のどが乾いたら、宿でも食堂でも水道の水を飲んでいた。散歩途中なら、コーヒー類を飲み、飛び切り暑い日は炭酸飲料を飲んでいたが、それほど好きではなく、しかも経済的理由もあって、月に1本飲むかどうかという頻度で、のどの渇きは水道の水というのが普通だった。それが、大方の旅行者の常識だった。

 ガイドブックには「生水は飲まないように」などと書いていあるが、だからといって、インドで毎日10杯も20杯も甘い紅茶を飲み続けるわけにもいかず、コーラ類をがぶ飲みしている人もいたが、「水道の水を飲んでいる」という人が、20世紀のアジア・アフリカ旅行者の多数派だったのではないか。このあたりのことは、天下のクラマエ師に解説していただきたい。

 日本人がタダの水にカネを出すようになったのはいつからか。「水を飲むな!」と言われていた運動部員が、正反対の「水を飲め!」と言われるようになったのはいつからか。そのきっかけはなんだったのかと疑問に思い調べたが、いまだによくわからない。わからないから、その周辺を調べてみた。

 1980年代にはまだ生産量が少なかったミネラルウォーターは、500ccボトルが発売された1990年代なかばから生産量が上昇してきた。1994年から発売されてきたスポーツ飲料を、2005年に水が一気に抜き去る。2020年現在、清涼飲料の生産高では、茶系飲料に次いで、ミネラルウォーターが2位になっている。

 スポーツ飲料は、1960年代からアメリカで研究が始まり、スポーツ選手や炎天下で作業する人たちの脱水症状対策として考えられたもので、1965年にはゲータレードが発売されている。間もなく、日本でもライセンス生産が始まるが、販売は成功しなかった。1980年に大塚製薬ポカリスエットを発売し、以後、徐々に日本のスポーツ選手も、水分補給を考えるようになる。

 日本におけるミネラルウォーター元年、つまり急激に売れ出すきっかけは、1994年らしい。猛暑と渇水の夏、給水制限により飲み水にも困る地域がでてきて、日本人が「ボトル入りの水を買う」ようになる。そのころ、「集合住宅の水がまずい!」という話がマスコミでしばしば耳にした。屋上タンクに貯めた水は、匂いなどの点で、たしかに飲料に問題があるものもあったが、「水がまずい!」という風評は、証拠はないがミネラルウォーターの販売戦略だったのではないかという気がする。「大量に水を飲むのが健康法」というキャンペーンも、水販売に加勢した。この時代に、スポーツ指導者の発言が、「水を飲むな!」から「水を飲め!」に変わり始める。私が見聞きした感じでは、「水分を取れ!」と学生生徒が言われる最初の世代は、1980年代後半生まれあたりからだろう。

 清涼飲料に関して、もっと知りたいという人に、次のサイトを紹介しておく。

 平成ミネラルウォーター史

 4回にわたった飲み物の話は、これで終わる。

 

 余話1:連続ドラマのいくつかをチェックした。さまよえる死者や幽霊や死んだのに復活という似た構成のものが多く、「ケッ!」と言いたくなるのだが、見てみればどれも悪くない。そのなかで「ピカ1の傑作!」と言いたくなるのが、バカリズムが脚本を書いている「ブラッシュアップライフ」(日テレ、日曜22時30分)がいい。GYAO!なら1話から無料で見ることができるはず。

 余話2:本の雑誌」でおなじみの目黒孝二さんが亡くなった。椎名誠さんとの対談『本人に訊け』1,2巻を年末に読み、じつにおもしろかったので、引き続き二人の本を読もうとしていた。『本人に訊け』は、この年明けに紹介しようと思っていて、書き溜めた原稿が重なって順延になっていた。いずれ、書く予定ですが・・・・。