1874話 自動車の話 下

 

 今の生活を幸せに思うことはいくらでもあるが、そのひとつは自動車がなくても生活ができる場所に住んでいることだ。都心の便利な場所に住んでいるわけではなく、駅から近いわけでもないが、バス停が近くにあり、バスに乗れば役所の出張所も銀行やショッピングセンターもある地に行くことができる。天気が良ければ、バスに乗らず歩いて行いて鉄道駅や郵便局などに行く。ホームセンターは荷物を持って帰ることを考え、自転車を使う。その昔、原付バイクを買おうかと思ったことがあるが、運動にならないので、徒歩か自転車を選んだ。

 近所におしゃれなカフェやイタリアレストランなどないが、そういう店はもともと必要がない。雑誌やテレビ番組で取り上げられるような店は近所にはないが、そんなものはなくてもいい。日常の、いつもの生活には、自動車は要らない。そういう場所に住んでいる。いままで免許証をとらなかったのは、必要がなかったからだ。

 そこで、いつもの妄想だ。もし、どこか、不便な土地に移住したら、自動車が必要になる。しかたなくそういう生活になるのだが、どういうクルマを買うか?

 時代を現在にすると、すでに免許返納の年齢だから、妄想が進まない。だから、仮に30代独身と言うことにする。移住場所は北海道や沖縄にする必要はない。自動車がないと不便という場所は、東京とはいえ多分、国立や八王子でもあるだろう。千葉や埼玉など首都圏ならなおさらだ。

 車種選びのために必要条件を考える。

雪はほとんど降らない土地に住む。

具体的には東京以南だ。

狭く急坂が多い山林地域には住まない。

小さくても、町がいい。鉄道駅やバス停が近くにないか、そもそも鉄道やバスルートから遠いという場所だから、不本意ながら自動車を持つことになった。

 いたしかたなく、そういう土地に住むことになってしまった不幸な私という妄想だ。その町には友人知人がいて、「名義変更の手続きをしてくれるなら、タダでやるよ」というプレゼントがあったとする。車検の残りがあまりない古い車なら、その可能性もある。「タダのクルマ」なら文句なくもらうか? 自分が持っているクルマで自己主張したいとはまったく思わないので、どのメーカーのどの車種でも乗れればいいのだが、暴走族仕様車だったら、どうしよう? 「どんな車でもいい」といっても、それじゃあ、さすがに下品だよな。維持費がかかりそうだとか、乗りまくっていて信頼性に欠けるといった欠点があるクルマの場合は、どうしようか。大型車だと燃費が悪いしなあ。クルマの横っ腹に、「高橋豆腐」とか「ダイヤ不動産」といった看板がある場合は、それもおもしろいと思うことにしよう。

 軽自動車をくれるというなら、多分もらう。事情次第で、買うこともあるだろう。

 軽トラックなら、どうだ?

 雨でも濡れないバイクと考えれば、軽トラックでも文句はない。高速道路を使って長距離ドライブをすることはないから、乗り心地に関する心配はない。どっちみち、バイクよりも楽だ。ただ、友人知人がはるばる訪ねてきたときに、駅に迎えに行ってもひとりしか乗せられないが、幌をしていれば、内緒で定員オーバーは可能だし・・・などとも思うが、いまのところ軽トラックが最有力候補だ。もちろん中古車屋で値段や程度を見て決めるから、「軽トラックに決定」というわけではない。

 中古車サイトcarviewを見ると、2013年製のスズキアルトは支払総額15万円というから、そのくらいの出費で買えるのだろう。それ以外に諸費用がかかるくらいのことは私でも知っている。雪国で暮らす気はないから、4WDである必要はない。高速安定性とか、0-400加速といった「カーグラフィック」読者が喜びそうな性能は一切気にしないので、アルトで充分だ。例え使いきれないほどのカネを持っていたとしても、自動車に多大なカネを使いたくない。デザインだけで言えば、1960年代のイギリス車が気に入っているが、あんなオンボロ車につきあう気はない。