1913話 言葉は実におもしろい。地道に勉強する気はないけれど・・・ その24

 

外国語のカタカナ表記についてふたたび。 KとGの話

 前回のように、いままで外国語の変なカタカナ表記についてたびたび苦言を呈してきた。苦言を、文句とかいちゃもんと言い換えてもいいのだが、私と同じようなことを言う人を見かけないのは、「私が変なのか?」ということなのだろうが、どうです?

 今回はKとGの話に限る。

 まずは、タイ語の話だ。タイ語にはgの音はない。ngはあって、カネは「ングン」のような発音になるが、gで始まる単語はない。それなのに、近頃、「カオマイ」という表記をやたらに見かける。料理名を分解すれば、カオ(飯)・マン(脂)・カイ(ニワトリ)となるのだが、ニワトリを「イ」と書きたがる人がいる。タイ語にはローマ字で書けばKになる子音が4つあり、そのなかの「コーカイ」つまり、「カイ(ニワトリの)K」という文字をgにしたがるから、ローマ字も”khao man gai”と書く人もいる。この、「ニワトリのK」はノドの奥から出すKで、それがうまくできない外国人はgで発音したがる。「それが、汚い発音だからやめてほしいと思うんだけどねえ」というのは、タイ語と日本語がバイリンガルのタイ人の発言だ。ニワトリとタマゴは綴りも発音も違うのだが、カタカナではどちらも「カイ」と書くしかない。そういう理屈もあるのだろうが、カタカナで表記できないタイ語などいくらでもある。

韓国語もkの音が3つあるが、そのひとつをgにしたがる。その話が『韓国語楽習帳』(黒田勝弘、角川新書、2022)に出てくる。

 日本人にはキンポ(金浦)空港としして知られているソウルの空港がある。ローマ字では以前はKIMPOと表記していたのに、今ではGIMPOになっている。KIMをGIMに変えるなら、金氏の名も同じように、KIMからGIMに変えるかと思ったら、そのままだ。

 ソウルの外信記者クラブで、韓国政府の国立国語研究所が韓国語の英文表記についてこう説明している。

 「名前を含む固有名詞など従来から慣習的に使われてきた表記はそのままでいい」という。それなら空港名もKIMPOのままでいいじゃないかと黒田氏が再質問した。英語圏の記者たちも、KIMPOの方が韓国語の音に近いという。黒田氏の質問に対する回答は、こういうものだ。

 「韓国語のローマ字表記というものは必ずしも外国人のためではない。あくまで韓国語の音をより正確に表記することだ」。あくまで正確さを求めるなら、ハングルのままでいいのだ。

 韓国人のために、ローマ字表記をするというのは、タイでも同じことだ。元の綴りをそのまま移し替えようとする。韓国でも同じだが、タイよりも韓国の方がよほどひどいと思われるのが、キンポ空港内の表示だ。ハングルに英語、中国語、「日本語と称する言語」での4言語による表記があるというのだが、韓国人が「日本語」だとする表記は、「ギンポゴンハン」だ。空港を意味する韓国語をカタカナで表記すれば「日本語」になると韓国人は考えている。だから韓国人が「日本語と称する表記」と書いたのだ。カタカナは日本の文字だが、韓国語の音をカタカナに置き換えただけだ。これで、「日本語表記あり」としているのだ。

 タイのスワナプーム空港には日本語表記は(多分)ないが、英語表記はあるが、これだ。“Suvarnabhumi Airport”外国人に読んでもらおうなどと考えていない。タイ語の元の綴りをローマ字に移し替えただけだから。韓国では、同じことをカタカナで書いた。

 「ああ、これだから、韓国は・・・」などと思ってはいけない。ついこの前まで、日本の道路標識も同じだった。日本語では「国会前」という表示についている「英語の表示」は、”Kokkai ”だったのだ。東京オリンピックが近づいた2018年に、「これはなんだ!」と指摘されて、“The National Diet”と改めたのだ。日本語もローマ字で書けば「英語」と思っているのが、日本の役人だ。韓国を笑えない。