読書 13 建築 2
路上観察学会のメンバーのなかで、ふたりの著作をよく読むようになった。ひとりは林丈二だ。次のような本が、街歩きが趣味の私の指針になった。その初版をあげておく。
『イタリア歩けば…』(廣済堂出版、1992)・・・イタリアに行く前に再読した。いいガイドブックになった。その成果は、このアジア雑語林の1059話、1065話、1076話、1094話でわかる。
『フランス歩けば…』(廣済堂出版、1993
『オランダ歩けば…』(廣済堂出版、2000)
『ロンドン歩けば…』(東京書籍、2005)
『パリ歩けば…』(河出書房新社、2004)
その著作をまとめて読むようになったふたり目の人物は、藤森照信さんだ。面識はないが、敬称をつけたくなる人物だ。
建物に関する本を乱読したから、雑多な知識は増えていったが、そろそろ基礎から建築を学んでみようかという興味が出てきた。一般向けの本ではあるが、建築や土木の技術書を買った。橋の種類や工法の本も読んだ。建築史を知りたくて、西洋建築史の本を買ったが、教会や城建築に終始していて、おもしろくなかった。そんななか、わくわくする本を見つけた。路上観察学会のメンバーとしてすでによく知っている大学教授が、わかりやすく、おもしろい本を書いてくれた。すばらしい入門書だ。
食文化における石毛直道さんにあたるのが、建築史家の藤森照信さんだ。音楽における小泉文夫さんの3人に共通しているのは、西洋人の学者の名前を出して抽象論を展開するハッタリ学者ではないことで、語り口はやさしくわかりやすい。神田神保町の建築専門書店南洋堂に通い始めたころに出版された、この新書を手にした。
『日本の近代建築 上: 幕末・明治篇』、『日本の近代建築 下: 大正・昭和篇』(藤森照信、岩波新書、1993)
この新書をきっかけに、藤森さんの本を片っ端から買っていった。のちに高い専門書も出すようになるのだが、そのころは安い本も多く、読みやすく、わかりやすく、写真も豊富なので、大いに勉強になった。単著共著合わせて20冊以上読んでいるが、特に推奨したいのがこの新書と、『昭和住宅物語 初期モダニズムからポストモダンまで23の住まいと建築家』(新建築社、1990年)と『建築探偵日記 東京物語』(王国社、1993)と・・・、名著が多すぎて、う~む選定に困る。私の好みで言えば、安い本ほどおもしろい。それは建築の素人向けに書いているからだ。
建築の本を多く買っているが、私が知りたいのは建築でも建築物でもなく、住居学に近いのかもしれない。人間は、家をどう使っているのかといった疑問だ。入口で履き物を脱ぐ習慣。寝る場所。入浴やトイレ。断熱や風通し。煙の処理。料理する場所。学問としての住居学は、衛生的で快適な理想の住まい研究なのだろうが、私が知りたいのは「過去と現状」なのだ。住まいの比較文化論、あるいは文化住居学などと名付けてもいい。そういう分野なので、実は類書が少ない。ある狭い地域を取り上げた民族建築学の著作はあるが、広くかつ深く論じた本は知らない。建築の本は、高名な建築家の作品を鑑賞する豪華本やおしゃれな雑誌(そう、あ~いう雑誌ですよ)ということになっていて、その手の本は書棚のお飾りがふさわしい。
私の興味分野で、今までのところ最上といえる2冊は、いずれも韓国を扱った本だ。『韓国現代住居学: マダンとオンドルの住様式』(ハウジング・スタディ・グループ、三沢博昭、エクスナレッジ、1990)は、定価5500円だったが、現在は定価よりも高くなっているが、「よーし!」と決意して買ってよかった。古民家から現代のアパートまで押さえているのがいい。国立民族学博物館が特別展示のために作った資料集『2002年ソウルスタイル 李さん一家の素顔の暮らし』(2002年)は、家にあるモノのすばらしいカタログなのだが、住生活という点ではその続編となる『普通の生活 2002年ソウルスタイルその後』佐藤浩司、山下里加、INAX、2002)がすばらしい。室内の写真と見取り図、そして冷蔵庫や収納庫のなかまで見せてくれた李さん一家に感謝だ。
そういう話を始めると、『地球家族』(TOTO出版)の正続や小松義夫さんの『地球生活記』など紹介したい本が次々と出てくるが、これらは20年以上前に出た本で、その後は傑作の出版はない(と思う)。神保町に出るたびに、建築専門書店の南海堂に立ち寄るが、最近は収穫がほとんどない。