読書 17 道具学2
私の興味範囲では、『食具』は満足のいくものではなかったので、ネット書店に戻り、「食具 食べる 道具」などで何回か検索してみると、『道具学叢書002 首から上の道具学』(山口昌伴、ラトルズ、2007)がモニターに登場した。 山口さんの本はほとんど読んでいるが、この本は知らなかった。道具学会が送り出す道具学叢書の001は『道具学への招待』で、002は山口さんのこの本で、国会図書館の蔵書検索をした限りでは、003以降は出版されていない。山口さんの最後の本は『ちょっと昔の道具から見なおす住まい方』(王国社、2008)らしく、『首から下の道具学』はその前年の2007年の出版だ。
山口さんとよく会っていたのは1990年代で、ある研究会で年に3回は会っていた。かねてから台所や道具の研究者ということはよく知っていて、『台所空間学 ; その原型と未来』(エクスナレッジ、1987)という本格的研究書のほか、『地球・道具・考』(住まいの図書館出版局、1997)、『世界一周「台所」の旅』(角川ONEテーマ21、2001)など手軽に読める本もある。食文化と建築の興味が、台所や食べ物関連の道具という形で合体したのだ。建築設計監理の仕事から居住学や台所研究の道に導いたひとりが、石毛直道さんだったはずだ。
私はこういう本を読み、疑問に思たこと、もっと知りたい事などを、山口さんに会ったときに、解消解決しようとした。数か月分の質問をすると、山口さんはややシニカルながらていねいに教えてくれた。
あるとき、台所の電化製品に関する雑談をした。日本には炊飯器、餅つき機、ホットプレートから電動ごますり器まで、じつにさまざまな電気器具が台所にあるのだが、「ヨーロッパではどうなんでしょうね?」というのが私の疑問だ。食洗器やフードプロセッサーなどは日本にもある。日本になくて、ヨーロッパにある物は・・・? 山口さんは2秒考えて、「フライヤーですかね。台所に据え置きのものもありますよ」といった。ハンバーガーショップやファミリーレストランなどにある揚げ物専用機で、調理台にすでに組み込まれている。毎日のようにフライドポテトを食べる家庭だと、そういう家電が必要なのだ。
そういう道具雑談をしていたある日、「今度、こんなものを始めましてね」とバッグから取り出した書類を見せてくれた。道具学会設立趣意書で、「前川さんも、入会してください」と誘われた。そのときどう返事したかは覚えていないが、しばらくして山口さんから入会申込書が送られてきた。2000年の初めあたりだっただろうか。
道具の研究はおもしろそうだが、ほかの分野への興味もあり、そのこととは別にある団体に所属するという状態がどうも肌に合いそうもなかった。山口さんから誘っていただいたが、申し訳ないが入会書類を返送しなかった。それから半年ほどして、再び入会案内が届いた。結果的には、それも無視した。礼儀知らずにも、きちんとした断りの返事を書かなかったのかもしれない。さらに、それから1年ほどして、道具学会の研究報告書とともに入会書類が届いた。今度の送り主は東京造形大学に移った小林繁樹さんだ。リトルワールドの研究員だった頃、私の質問に答えてくださった方で、そのあと何度か手紙のやり取りをしたのだが、そういういきさつがありながら道具学会に入会はしなかった。
2013年、知り合いから山口さんが亡くなったという知らせを受けた。葬儀日程も教えてくれたが、不義理は承知で葬儀には参列しなかった。話をしたい人がその場にいないのだから、会場に行く気がしなかった。
このコラムを書きながら、お世話になった山口さんのことをいろいろ思い出し、10年遅れの香典代わりに、道具学叢書の001と002の2冊を注文した。その著作を改めて読むとともに、山口昌伴と言う名をネット上にも残すことも返礼だ。
後日、さっそく届いた001『道具学への招待』を読了。おもしろいです。デザインや文化人類学に興味がある人、アマゾンで送料込みで1000円以下で買えるので、お勧めします。