2103話 続・経年変化 その67

食べ物 12 飲み物

 飲み物の経年変化は、どうだ。

井戸や水道の水しか飲んでいなかった少年が、初めて水以外の飲み物を口にしたのは、両親が飲んでいた緑茶か、それとも夏の麦茶の方が早かったかどうかという記憶はないが、少年時代に飲んだことがあるのは、それに加えてカルピスくらいだが、習慣的に飲んでいたわけではない。あっ、今思い出した。粉末ジュース「渡辺のジュースの素」は小学生低学年のころに飲んでいた。親戚の子供がウチに来た時、作って出したら、その母親が、「うちの子は、そういう粉末ジュースは飲まないの」と言われて傷ついたのを今でも覚えている。

 小学生高学年時代、世間では盛んにコーラの宣伝をやっていて、コカコーラはたぶん35円で、インスタントラーメンと同じ値段だったと思う。コカ・コーラは高いので、初めて飲んだのはクラウンコーラだったかもしれない。「まずい」というのが最初の感想で、以後、好んで口にすることはなかった。しいて言えば、熱帯を旅していた時に、「ああ、冷たいものを飲みたい!」と思ったときにコーラを飲んだことはあった。ファンタはもっと嫌で、ほかに選択肢があるならスプライトにした。アイスコーヒーやアイス紅茶は好んで飲んだ。「瓶入り飲料なら安心だが、氷はまずいぞ」という旅行者が少なからずいたが、いっこうに気にしなかった。タイのアイスコーヒーは頭痛がしそうなほど甘いが、増量剤として粒冰が山ほど入っているから、ビニール袋にいれて宿に持ち帰り、30分ほど室温で放置する。ほど良く氷が解けて、ちょうどいい甘さになる。

 だから、タイの「氷で増量」商法は気に入っている。1分で氷が姿を消すマレーシアなどに来ると、「もっと氷を入れてくれよ」と不満に感じる。この感情に同意するのは、タイ人と日本人とアメリカ人だろうか。

 日本では、私は熱いコーヒーや紅茶には砂糖もミルクも入れない。冰を入れる場合は、砂糖もミルクも入れる。熱い紅茶に砂糖とミルクを入れて飲んだのは、インドだった。トウガラシが効いた料理の後は、甘い紅茶はうまい。あるいは、肌寒い早朝の、その日最初に口にする甘い紅茶はインドの思い出だ。食べ物が違うせいか、日本では甘い紅茶を飲みたいと思ったことがない。

 ペットボトル入りの飲み物を買うことはあまりない。真夏に外出するときは保温ポットに冷たいお茶を入れて出かけ、もし飲み干したらお茶を買って補充する。旅行中は、いつからか、ショルダーバッグにかならず水を入れておくようになった。ヨーロッパだと、2リットルくらいの大きなボトル入りの水を買い、毎朝出がけに500CCくらいのボトルに詰め替えて散歩に出かける。

 話を20代初めに戻す。水、そして麦茶や緑茶にコーヒーや紅茶が加わり、中国料理店でコックをしていたせいで、烏龍茶やジャスミン茶を飲むようになった。缶入りやペットボトル入りの中国茶が出回る以前の話だ。それ以来、こうした茶葉を常備するようになり、40歳を超えて、そこにほうじ茶が加わった。飲んだことがなかったので、試しに飲んでみたら、がぶ飲みに適しているので、夏は麦茶、冬はほうじ茶か烏龍茶をがぶ飲みするようになった。玄米茶と抹茶は、いまだに好きになれない。

 うんざりしながら飲んでいるのが、回転すし屋の粉茶だ。あのお茶をうまいと思っている人がいるのかもしれないが、私の好みには合わない。有料でいいから、ティーバッグを置いてくれ。「今度行く時は、ウチから茶葉を持って行こう」といつも思うのだが、つい忘れてしまう。もし、また行くことがあれば、忘れずに緑茶のティーバッグを持って行こう。

 コロナ禍直前にバルト3国を旅行した。どの宿にも、「ご自由にお飲みください」と、台所にハーブティーティーバッグが置いてあった。ハーブティーは苦手だったのだが、お茶代わりに飲み始めたら結構気に入って、何箱か買って帰った。持ち帰ったハーブティーはすぐに飲み干し、日本で探すと、かなり高い。日本で買ったことがなかったから、相場を知らなかったのだ。バルト3国では、言ってみれば「タダみたいに安い」。宿で飲み放題になっているのだから、実際、かなり安いのだが、日本では高かった。ケチな私は、安いもの(もちろん、輸入品)を買って飲んでみたが、残念ながらまったくうまくない。旅行者の「あるある」なのだが、旅先で「うまい」と思ったものは、日本で口にしても「そうかなあ?」という程度になるということか。