2121話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その 16 

韓国関連本 2

 そういえば、韓国本の棚に入らない大きめの本が別の棚に入っていたなあと気がついたので、旅行関連のガイドやムックを入れてある棚を見ると、韓国の本が数冊あった。

あんにょん・ソウル 韓国日常雑貨辞典』(四方田犬彦編著、洋泉社、1986)

 インスタントラーメンのカタログと食べ比べがある。映画館の窓口写真がいくつもある。トリュフォーの「隣の女」を上映中(「上映中」と漢字の看板あり)で、入場料は2500ウォン。調味料。化粧品、雑誌、メンコ、看板などカタログ化した紙面で、それが当時の出版界の流行でもあったとわかる。平凡出版がマガジンハウスと社名を変えたのが1983年。すでに「ブルータス」などカタログ化した構成の雑誌を出して好調な売り上げだった。

 巻末に「これからの読者に・・・」というタイトルで、韓国本読書案内がついている。その時点で、そのほとんどをすでに読んでいる。読んでいないのは韓国の小説や詩集だが、『ソウルの華麗な憂鬱』(崔仁浩著、重村智計訳、国書刊行会、1977)は読んでいる。少しは韓国関連書を読んでいる人なら、著者チェ・イノがテレビドラマ「商道」(サンド)の原作者だということに気がつくかもしれないし、翻訳者の名に少々驚くかもしれない。「経済的に気楽に韓国を旅行するためには、いまのところ、『地球の歩き方 韓国篇』が手頃」とある。観光地や買い物にはそれほど興味がないという旅行者向けに、「地球の歩き方」に迫ろうというガイドブックは過去には何点か出版されたが、しだいに淘汰されて、結局「地球の歩き方」だけが生き残っている。

 この『あんにょん・ソウル』の表紙には、「アンニョン」がハングルでデザインされている。韓国・朝鮮語テキストでもなく、マイナーな出版物でもなく、表紙にハングルが登場したのは、私の記憶では『ソウルの練習問題』1984)が最初だった(あくまで、韓国観察者ではない私の記憶では、ということだ)。85年にソウルの話をある雑誌に書いたら、デザイナーがタイトル下にハングルで「ソウル」といれて、エキゾチシズムあるいは旅行気分を演出しようと考えたようだが、校正時にそのハングルが上下さかさまだということに気がついて、すぐさま訂正の指示を出した。ハングルを少しでも読めると、こういう効能もある。

 さかさまと言えば、1992年、ミュージカル「ミス・サイゴン」が日本で上演された。その舞台を見たタイの友人が、「バンコクのパッポンのシーンが出てくるが、看板のタイ語が上下さかさまでした」と報告してくれた。そういう時代だったのだ。そういえば、私が書いたタイの原稿でも、タイ語が裏返しになっていて、校正で直した。写真が裏焼き(裏返し)だったのだ。

 おまけに、もうひとつ。たぶんテレビの「世界ふしぎ発見!」だったと思うが、ある事実を説明するために、アラビア語の古い本を画面に出して、「はい、この行ですよ」とカメラが文章を追うのだが、もちろん日本人は読めないから、ちゃんと資料を示していますよのいう演出なのだが、古い本の文章を撮影しているカメラは左から右に移動していた。横書きの文章は、左から右に書いていると、スタッフ全員が思い込んでいたのだろうが、アラビア語は右から左に書く。カッコつけのためだけに外国語を使うと、トンだ恥をかくという例だ。

横道話が長くなった。

 『ソウルの市場全案内』(木村昭平・藤沼良三・唐十郎ほか、新潮社、1988)

最初のページは、おそらく南山から撮影したと思われるソウル。別の本で同じ写真を見ているので、借り物写真だろう。右手にロッテ・ショッピングセンター、中央にソウル・プラザホテル、左手に南大門市場や南山教会が見える。今はそれらの建物の前に高層ビルが林立して、もはや見ることができない風景だろう。

 この本は「とんぼの本」の1冊で、市場カタログの面と読み物で構成されていて、イラストレータ霜田恵美子のエッセイがなかなかおもしろい。1984年に、友達にくっついて下関から韓国に渡った旅で、特に目的なし。情報なしという旅で、今ならど~ということもない文章なのだが、彼女の個性と時代がおもしろい旅行記になっている。

 私の興味範囲外だが、梨泰院(イテウォン)の俯瞰カラーイラストは、そこになじみがある人には感動的だろう。85年に1度行ったことはあるが、まったく記憶がない地区だ。

 『おいしい・ソウル 食べ歩き徹底ガイド』(榊原陽一郎・著、金斗鉉・イラスト、洋泉社、1988)・・当時の外食文化資料が満載。イラストマップがたくさんあるのも魅力だろう。ガイド本は、古くなると価値が高まるという証拠だ。韓国の出版物に、これほど細部にわたる街のイラストマップがあっただろうか。

 ページをめくると、1980年代後半のソウルとそこに住み働いている人たちの服装や髪形やしぐさががわかる。ソウルの場合、観光ガイドブックの写真でもかなり変化があるのだが、街と人の写真は歴史遺産だ。