2159話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その54

トイレの話 1

 このブログの旅行記ではいつもトイレを取り上げているのだが、今回はそんな予定はなかった。ただ、食べることと出すことは、旅をしていれば毎度関わるから、どうしても意識するのだが、今回は食文化のことだけを考える予定だった。このブログではすでに「排泄文化論序章朝鮮編」として、572話の第1回から10回も連載している。2万字くらいの文章だから、けっこうな分量だ。しかも、私にとってよくあることだが、多分、「類書ナシ」の文章だと思う。だから、もう書くことはないはずだ。

 ソウルのホテルはシャワー&トイレ完備で、便器の脇にゴミ箱があった。韓国は、「使用後のトイレットペーパーは便器に捨てずに、そのゴミ箱に捨ててください」文化の国だということはわかっている。とりたてて珍しいことではない。

 宿泊したホテルのトイレ。使用済みのトイレットペーパーは、カゴに捨てるのが韓国のマナー。写真左下のゴミ箱は、あえてはっきり見えないように配慮して撮影した。

  韓国到着2日目から博物館巡りを始めた。博物館は、本来の目的のほか、散歩の休憩所でありトイレに寄っておく重要な場所でもある。「トイレがあれば、寄っておけ」というのが街散歩の基本だ。

 国立民俗博物館のトイレから「ハテナ?」が始まった。小用に立ち寄ったトイレだが、個室の扉が開いていて、なかが見える。便座にスイッチ類が見える。洗浄機能付き便座ではないか。日本では商品名の「ウォッシュレット」が総称として普通に使われている。ホテルのトイレはまだ使用後の紙を流せない旧システムのままだが、博物館では「紙を流せる」という次の段階であるウォッシュレット付きだ。そこまで来ているなら、ちょっと調べたくなった。いつもの好奇心が湧き出してしまったのだ。

 韓国製の洗浄便座だから、表記は当然ハングルのみ。日本人だと想像してなんとか使える。

 その日から連日いくつもの博物館に通ったのだが、どの博物館のトイレにもウォッシュレットがあった。インターネットの力を借りると、韓国語でウォッシュレットは「ビデ」というようだ。フランス語のbidetを使ったのは、韓国では最初はビデ機能を強調したのだろうか。小ネタでは、男性用トイレにはビデ機能なしの「男性用ウォッシュレット」つまり韓国語なら「男性用ビデ」があったようだが、不人気で男女共用便座になっていったようだ。

 私の記憶に残る韓国の古い形のトイレは、日本のしゃがみ式と同じ形のものだった。しゃがみ式便器を「和式」と表現する人が少なからずいるのだが、しゃがんで用を足すのは日本だけではないから「和式」はおかしく、私はいつも「しゃがみ式」と書き、いわゆる「洋式」と呼ばれている便器を、私は「腰掛式」と呼んでいる。

 ところが、韓国のしゃがみ式は、まさに和式だった。丸いキンカクシがついた日本の便器そのものだった。日本時代のものがそのまま残っているのではなく、おそらく韓国製の「和式便器」なのだ。今なら、発見時にすぐさま写真撮影をしておくのだが、雑誌の取材で来ている80年代だったので、トイレまで神経が及ばなかったが、記憶には残った。その記憶が、40年後によみがえった。