2173話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その68

食文化を眺める 8

 話は、水原駅の観光案内所から盆唐線ホームに向かうときに戻る。そもそもは昼飯を食べようと地下鉄1号線に乗ったのだが、まだ飯にありつけず空腹を抱えたまま歩いている。パンでも買うか? 場合によればパンでもいい。韓国のパンが食べられるのだから、それはそれでおもしろい。 ショッピングセンターはあるらしいが、時間がかかるのはまずい。駅の通路を歩いていると、日本なら立ち食いソバの店のような、カウンターだけの店を見つけた。「ここなら、早くて安い飯にありつけそうだ」。“김밥 4500”と書いた紙が壁に貼ってある。このくらいのハングルならすぐに読める。キムパップだ。チャジャンミョンがキムパップに変わったのだが、大した変化ではない。韓国料理の最安飯のトップ2だ。

 水原駅構内にあった、カウンター席だけののり巻き屋。韓国で「オデン」と呼ぶ練り物入りの汁がつく。タクアンはついてなかったなあ。4500ウォンは、500円くらい。

 上葛駅からのバスは、音楽の話で書いた。車内でポンチャックが流れているバスだった。

 民俗村には明日行く予定だったから、日程が前後しただけだから、問題はない。30年も前に2度ここに来ているが、時間つぶしに来ただけのことで、ひとりでゆっくり見ていく時間はなかった。展示品の記憶はない。古い家があったというだけの記憶だ。今回はゆっくり見るぞ。

 『地球の歩き方』(2023)では入場料32000ウォンになっているが、料金表には「35000」と書いてある。ほかの物価も、ガイドブック取材後1~2年で値上がりしているようだ。窓口に35000ウォンを出すと「パスポートを!」と言われた。過去にさまざまな場所でパスポートチェックをされた記憶がよみがえり、「ええ?」とけげんな声を出した。「シニア割引があります。65歳以上なら18000ウォンです」。そうか、そうか。半額割引はありがたい。日本円なら2000円くらいだ。さすが敬老の国だ。ヨーロッパではシニア割引がかなり有効で、エストニアのタリンからポーランドワルシャワまでバ長距離バスの切符を買おうとしたら、やはり「パスポートは?」と言われて、シニア割引があることがわかった。日本でもシニア割引きがあるが、一度も利用したことがない。

 ここ、民俗村も、説明不足の施設だ。基本的にガイド付きの団体旅行者を顧客としているからだろう。日本語か、せめて英語の音声ガイドがあればありがたいのだが、「古い家を復元しました」というだけだと、あまりおもしろくない。

 バルト三国野外博物館はどこも、住宅に自由に入って行けるから、生活がわかる展示になっている。その家に住んでいる人が、いま家庭菜園にいるかのような展示だから、タイムマシーンで過去の住宅を訪問したかのような感じになっているから楽しいのだ。職人の作業場も、台所にコーヒーを飲みに行ったかのように、道具も木くずもそのまま置いてある。この民俗村では外観だけの展示だ。台所も外から覗くしかない。生活感がないのだ。建築の展示であっても、民俗学の展示ではない。

 生活感といえば、エストニアの首都タリンの「ソビエト時代の生活展」では、新聞紙を切ったトイレットペーパーまで再現していた。こういう生活感が重要なのだ。