食文化を眺める 9
韓国民俗村で私が見たかったのは、台所用具や食事用具だ。台所そのものはほかの資料である程度分かっているのだが、例えば300年前の包丁やまな板や鍋類の全貌を見たいのだが、ほとんどわからない。台所にあったはずの各種調味料も、ここの展示用台所にはない。「どのように食べたのか」という私の疑問に応えてくれる展示もなかった。
不十分ではあるが、ここの台所を紹介しておこうか。こういう台所の再現は、他の博物館でも展示しているからたいして貴重ではない。「どんな姿の台所か?」というような全体写真ではなく、台所用具や調味料にまで説明が及ぶ精密さが欲しいのだ。
台所は地面を掘り下げてかまどを作った台所にしている理由は、床暖房オンドルのためだ。かまどの向こうの戸からできた料理を出す。中央のザルに入っているのは、おそらくドングリだろう。日本人の目にはコンニャクやくず餅のように見えるトトリムクの材料になる。ドングリの左にあるのは柿の皮のように見えるが、種の形が違うから、私にはわからない。
右の焚口にさしてある道具は、おそらく手動式送風機だろう。韓国に火吹き竹はあるのかどうか検索すると、このアジア雑語林がヒットしてしまう。気に掛ける人は私のほかにいないのか。
時代の説明がなかったが、農村では1940年代でも50年代でも変わりはなかったと思う。使っているかどうかはわからないが、農山村離島では、今でもこういう台所は残っているだろう。ドラマ「ピノキオ」(2014)では、2000年代初めの離島の家の台所が、まだこういうものだった。大阪の国立民族学博物館なら、台所での作業風景を動画で見せてくれるだろうなと思った。
台所で煮炊きして、熱気が床下を通して隣の部屋に流れる。この家の場合は、老人用の温かい部屋は台所のそばだ。
島の住宅は英語でもちょっとした解説があるが、室内に入れないので、詳しい生活ぶりがわからない。外観だけだが、紹介しておこう。
鬱陵(ウルルン)島の住宅
済州(チェジュ)島の住宅。石が多い島だからか、石積みの家。
珍(チン)島の住宅。こういう土壁の家が韓国にもあるのだ。
民俗村は、じっくり見ていくと数時間はかかる。そのくらいのおもしろさはあるから、「もっと詳しい解説を!」と願うのだ。有料でいいから、見学ガイドを用意しておいてくれたらいいのになあ。