2203話 若者の旅の今 3

 「スマホが日本国内と同じように使えない場所には行きたくない」という主義主張趣味趣向を、視野を広げてみれば、「今の生活をそのまま維持したい」ということだろう。若者に限定せず、日本人の旅について考えてみよう。

 私の想像では、決まりきった毎日を求めるのは、中高年の男に多いという気がしている。昔でいえば、夏はビールと枝豆をテーブルに置いて、テレビでナイター。春と夏は高校野球(野球おっさんたちの冬の楽しみってなんだろう? スポーツなら、なんでもいいんだろうか)。日曜日は、NHK大河ドラマ。週に1度くらいは会社近くの居酒屋で、同僚や取引先や旧友たちとうまい酒と肴を楽しむという人たちは、大金を使って不自由で不便な場所に行きたくないということだろう。

 海外旅行をする気がないというのは、「こんなに快適な日本の生活を、一日たりとも離れたくない」ということなのだろう。「快適な日本の生活」のなかには、日本食はもちろん入るが、それだけでなく、バンバーグやカレーや牛丼なども入る。居酒屋もその重要な要素だろう。テレビ番組も、洗浄機付き便座も、日本語生活や治安も、なにもかもすべての「日本」が快適なのだから、外国に行く気はないよということだろう。海外旅行をするのが善で、しないのが悪というわけではない。興味がないなら致し方ないが、「それでおなあ」という話を続ける。

 今、30年ほど前のことを突然思い出した。旅先で会う日本の若者が、口を開ければ「やっぱ、日本は最高だな」とか「日本人なら、もっとうまくやるよな」とか「日本製品って、すばらしいよな」といった「ニッポン・バンザイ!」発言の連続で、私と同世代のライターも、「あの発言、気になるよな」といっていて、どうやら私だけが耳にしていたことではないらしい。あるとき、「なんでも、日本が最高だよね。メシはうまいし、細かいシステムは整っているし・・・」」と話している若者たちに、「日本の欠点は見えてこないの?」と聞いたら、「日本は最高じゃないですか。日本人が日本を自慢してまずいですか?! 日本が嫌いですか?」と糾弾された。ネットなら、「この反日分子、在日野郎!」などと書かれただろう。欧米崇拝の気質は保持しつつも、「外国に学ぶものなどなにもない。外国に、日本よりもすばらしい物事はない」という信仰に染まっているようだった。だから、外国語を学ぼうという気はない。いつまでたっても、英語さえロクにしゃべれないという人たちが、「この反日野郎!」と糾弾するのだ。「日本はすばらしい」と自覚するのが悪いというのではない。「なんでも日本が最高!!」という絶賛が排他的になりつつあるという危惧だ。あっ、そうか。尊王攘夷だ。

 もう「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ということばは消えたが、今ほどラーメンやマンガが世界で称賛される前の時代に日本称賛ブームが起こっていた。日本人にとって世界は、リゾート地とショッピングセンターに変わったようだ。日本語が通じるハワイが、日本人の「世界」なのだ。

 深田祐介が駐在員夫人について書いた文章を思い出した。日本人駐在員夫人たちから嫌われているのは、英語や現地の言葉ができて、日本人以外とも交流のある夫人たちだという。日本語しかできない人たちは集まって、駐在先の悪口を口にして憂さ晴らしをして、帰国する日を指折り数えるのだという。「やっぱ、日本は最高!!」と言っている人たちと同じだ。