2247話 日本人の海外旅行史 29 旅券1

 パソコンに残っていた旅券関連年表のメモを3回にわたって紹介する。福島県の資料「旅券関連年表」などを基に作成した。このメモを書いたときには、まだ『パスポートの発明』(2008)や『パスポート学』(2016)は出版されていない。パスポートのことは今も気になっているものの、その2冊を読んでいても、このメモに大きな影響はないだろう。

 「1970年代に入ると、旅行資金の問題さえ解決すれば、外国に行くことなど簡単なことだった」というのが私の感想なのだが、それは私が首都圏に住んでいたからだ。もし、首都圏や京阪神の大都市圏以外に住んでいたら、日本を出るまでの段取りがなんとも面倒だったはずだ。意識していなかったが、私が首都圏に住んでいたおかげで、いくつもの幸運があった。

 「オデッセイ」のような旅行雑誌が簡単に手に入り、その編集部や格安航空券を扱っている旅行社にもしばしば足を運び、旅行情報を手に入れた。大使館に行くのも面倒ではあっても散歩気分で出かけられた。「旅行人」もインターネットなどない時代、山村離島でなくても、地方の大都市でさえ個人旅行の情報は簡単に手に入らなかった。

 旅行手続きの第1歩、パスポート取得も県庁所在地にしか事務所がなければ、住んでいる場所によっては、申請も受理も1泊旅行になるかもしれない。パスポート用の写真は長らく「インスタント写真不可」だったから、写真館がある町で撮影しておかなければいけなかった。「きちんとした服装」が暗黙の規則だったと思うから、私でさえ父のネクタイを借りて撮影した。

 パスポートを取ったら、上京するしかない。なんとかして安い航空券を手に入れたら、その航空券を持って、大使館に行ってビザを申請する。たとえ大阪に住んでいても、東京の大使館に行かなければいけないこともある。海外旅行には予防接種証明書(イエローカード)が必要だったから、コレラ、黄熱、天然痘のどれかか旅行先によってはすべての予防接種を受けなければいけないが、地方の病院や保健所でそういう予防注射が可能だったかはなはだ疑問だ。外貨両替も、地元の農協や地方銀行ではできなかったし、TC(旅行用小切手、トラベラーズ・チェック)も東京や大阪でやるしかない。そういう事情だから、日本脱出まで首都圏で1週間ほど滞在する必要があった。

 そして、いよいよ出発となると、東京や大阪の国際空港まで行かなければならないから、カネも時間もかかる。私の場合、羽田へは通勤圏だし、成田ならもっと近い。海外旅行には便利なところに住んでいるだけでも楽をしている。

 いままで日本人の海外旅行史を書いてきたが、海外旅行に関して私が恵まれた環境で生活してきたから、「地方在住者の生活環境と海外旅行に関する不平不満」について配慮がなかった。そういう反省も込めて、日本の戦後旅券史のメモを公開する。役所の文書を参考にしているので、理解できない用語も少なくないが、そのままにしてある。

 

1951.11.28 旅券法制定

1951.12.1  旅券法施行

1966.1       渡航回数の制限の撤廃

1963.4.1   業務渡航の自由化

1964.4.1   観光渡航の自由化

1970.12.1  数次旅券5年間有効の発行開始

1970.12. 1  沖縄復帰

               *『実用世界旅行』(1970)や『外国旅行案内』(1968)を参考にすると、当時のパスポート申請書類は

            ・外貨の許可証(海外旅行のための外国へ向けた支払い承認・許可申請書 1通

           ・一般旅券発給申請書 正副2通

           ・写真(5cm×5cm) 2枚

            ・戸籍抄本 1通

   ・料金は一次旅券 1500円、数次旅券 3000円

    上記資料には書いていないが、「渡航費用の支払い能力を示す書類」が必要だった。

    「身分証明書の提示」も必要だったらしい。

  1. 9.29  中国と国交回復
  2. 5.15  東ドイツと国交回復
  3. 9.21  北ベトナムと国交回復(未承認国は、朝鮮民主主義共和国のみ)

1974.8.15   韓国で文世光事件

1975.3. 1   施行規則改正:前年の文世光事件で、他人のパスポートを利用して犯人が韓国に渡ったため、パスポート取得手続きが厳しくなる

    ・身元確認事務の強化(住民票、はがきの提出義務化)

    ・代理申請取扱いの厳格化(施行 S50. 4. 1)

  1. 4. 1  旅券の変造防止対策として旅券面の写真への保護シート貼付実施

1977中ごろ以降 渡航費用の証明書と「外貨買い入れについての日本銀行も許可書」提出義務なくなる(『パスポートとビザの知識』)

    *前川註:1973年時点の私の経験では、パスポート申請書に「渡航費用を証明せよ」という項目はあったが、旅行者の多くはツアー参加なので、その部分は旅行社が証明した。私のような個人旅行者は「銀行の残高証明」を提出という情報もあったが、自分名義の通帳を見せるだけでよかった。旅行先と旅行期間が決まっているわけではないし、数次旅券の申請なら「旅行費用の証明」など意味のないことで、73年当時ですでに意味のない項目だったが、お役所仕事は77年までその項目を温存した。

 以下、続く。