「スーパートランプ」の謎を解くには、ウェールズ出身の詩人・作家から話を始める必要があるとわかった。
ウィリアム・ヘンリー・デイビス(William Henry Davies 1871~1940)はイギリスやアメリカで放浪生活を続けて、詩を書き文章を綴った。1908年に発表したのが“The Autobiography of a Super-Tramp”(『とびっきりの浮浪者の自伝』とでも訳しておくか)だ。マッカンドレスのいわば「浮浪者宣言」は、デイビスのように生きるぞということなのだろう。デイビスは英語圏では比較的知られた詩人・作家だが、もしかするとマッカンドレスが「スーパートランプ」を知ったのは、デイビスが先か、それともロックバンドのスーパートランプが先だろうか。ミュージシャンのリック・デイビスが好きな文学作品は、自分と同姓ということもあって、デイビスの“The Autobiography of a Super-Tramp”にちなんで、新しく作ったバンドの名を「スーパートランプ」とした(1969年)。それだけではない。1986年に発表したコンピレーションアルバムのタイトルも、同じだ。
クリストファー・マッカンドレスは、日記のなかではアレグザンダー・スーパートランプと改名したが、旅行中に見つけた仕事先ではアレックス・マッカンドレスと名乗った。アレックスあるいはアレグザンダーに意味があるのかどうかわからない。
もしかすると、ウィリアム・ヘンリー・デイビスの著作が日本語に翻訳されているかもしれないと調べると、あった。ありがたいことに、“The Autobiography of a Super-Tramp”が翻訳されていて、すぐに手に入る。『ある放浪詩人の覚え書』(杜川卓訳、松柏社、1996)が手頃な値段で出品されている。すぐさま注文すると、「注文を受けました」というメールが届いた。そのとき、出品者が天牛書店だと気がついた。少しでも古本屋歩きに足を踏み入れたことがある者なら、大阪の天牛を知らない者はモグリだ。もちろん、大阪・天神橋店にも行ったことがある。格調高い古書店だ。
すぐに本が届いた。きわめてていねいな包装だ。
ウェールズ生まれのウィリアム・ヘンリー・デイビス(1871~1940)は、そこそこ豊かな家庭で暮らす高校生時代、あまり学校に行きたがらない少年で、仲間と万引き団を結成して荒らしまわるのだが、結局警察につかまり、退学。その後、おとなしく働く青年になったのだが、イギリスでの退屈な毎日に嫌気がさし、アメリカに渡る決心をする。1893年のことだ。アメリカに着いて仕事を探そうとしたときに、乞食のプロに出会い、その男と行動を共にする。この本では「乞食」に(こつじき)とふりかなを振っているが、宗教的行為ではないので、「こつじき」よりも「こじき」が正しい。ブラムという名のその男は、労働を軽蔑していて、日本風に言えば「乞食道」とでも呼びたくなる哲学を持っていた。食い物やカネをうまく手に入れるために、それなりの工夫と努力をして、研鑚を積んでいた。労働しないことに誇りを持っている者を、差別しないために、「乞食」と呼ばずに「物乞い」と呼ぶのは違う。まあ、「乞食」はダメで「物乞い」ならいいというマスコミの基準もわからないのだが・・・。