■旅行史の文章を書いていた時は、関連事項の資料紹介や出典紹介はしても、きちんと本の話はしてこなかった。いや、別の理由もあって、「これはいいぞ」と言える本が少ないのだ。でも、まあ、本の話を少ししよう。
『現代中国のトイレ革命』(周星、徐青訳、論創社、2025)の著者は、神奈川大学教授。たぶん、あまりおもしろくない本だろうという予想はついた。それでも、この高い本を(4000円)を買ったのは、類書なしだからだ。読んでみれば、やはりおかしな本で、結局「中国政府万歳」の本だという印象を受ける。全体的に、この本はなにを言いたいのかと言えば、「中国政府は努力を重ねて、衛生的なトイレを作っています」という報告で、中国と中国人の汚点は極力触れないという筆致だ。
なぜ、かつて中国人はトイレを作らず、家の近所の路地のその辺で用を足していたのか。そういう歴史がほとんど書いてない。中国のトイレに関して、私がもっとも知りたいのは、壁やドアもない通称「ニーハオ・トイレ」のことだ。これに対して、日本人読者を意識して、「日本には連れションというものがあるのだから、大したことはない。それよりも、中国のトイレに関して、日本、韓国、香港、台湾の一部の「心ある人」(このように「 」付きで表記している。皮肉である)が嘲笑しているのが許せないと怒っている。中国人旅行者が旅先の公園や路上などその辺で用を足していると嘲笑しているのは、反中国的発言だから許せないと怒る。怒るが、なぜ壁ドアのないトイレを作ったのか、なにひとつ書いてない。中国公衆便所・共同便所史はなにも書いていない。中国人は外国に行っても、そこここでしゃがんでしまうのかという問題をいっさいは論じない。「中国人が書く本は、すべて政治的である」という印象が深かった。中国人の恥になりそうなことは触れないのだから、興味ある本にはならない。
『コンビニからアジアを覗く』(佐藤寛+アジアコンビニ研究会、日本評論社、2021)のことはすでにちょっと紹介したが、東アジアと東南アジアの食文化研究には重要な資料となる。ここで各国のコンビニ事情を紹介していくとキリがないので、ベトナム編(大久保文雄・長崎県立大学講師)を取り上げよう。私は、ベトナムのコンビニは「行ったことはある」という程度で、とくに覚えている事柄はない。
ベトナムでもおでんが人気らしい。タマゴやはんぺん、カニカマなど豊富にタネを用意しているのだが、汁は日本と違い、辛みと酸味が効いたトムヤム味なのだという。「タイの味」はトムヤムとして国外に広まっているようだ。
おにぎりも大人気だというが、気になる記述がある。
「一昔前、日本のコンビニでおにぎりを購入すると、具材に関係なく『温めますか?』と聞かれることが多かったのではないだろうか」
私は「コンビニでおにぎり」という生活をまったくしてこなかったこので、知らないのだが、そうなの?
私の知識は、「台湾では温めることがある」であり、テレビで「沖縄では温めることがある」と知ったのだが、日本全域でも「温める」が普通だったのか。
「ベトナムではおにぎりを温める」のは、理由があると説明している。日本のコンビニでは、おにぎりは16~20度で陳列しているのだが、ベトナムでは「10度以下で管理せよ」という法律があるから、おにぎりを買った客のために温めるのだそうだ。
おでんについて、こういう事情も説明している。中国のコンビニおでんは、重慶では日本の汁と地元の人の好みに合わせて四川の辛い汁の両方を用意したのだが、「本物」の日本の味がいいということで、日本の汁だけを用意することになったのだという。そういえば、台湾のコンビニにもおでんがあり、こちらは日本風と四川風の両方の汁を用意しているから、鍋もふたつ用意してあったのを覚えている。
『誤読のイタリア』(ディエゴ・マルティーナ、光文社新書、2021)で、「やっぱり、そうでしょ」と思たのは、日本在住イタリア人は、「日本人はアルデンテと言いたがる」という話。生パスタの店でも、アルデンテにこだわる人がいて困るという話を語っている。
■私は日本でもめったにコンビニに行かないのに、アジアのコンビニ文化は調べてみたくなる。同様に、自動車運転免許証も持っていないのに、旅に出ると路上を走っていく自動車を調べてみたくなる。私の行動や興味が、日本と旅先でもっとも大きな違いは、日本ではほとんど外食しないが、旅先では外食生活だ。宿に台所があっても、料理する気にはならない。自分の味ではなく、「現地の味」を体験したいからだ。
今回の旅の話の下書きがたっぷりできた。隔日掲載だと、かなりまとめて下書きをしておかないといけない。次回からいよいよ旅の話を始めます。雑話ネタはまだまだいくらでもあるが、また別の機会に。