サンダルを履いて日本を出たのはいつ以来だろうか。
外国旅行をするなら、当然靴を履くものだという認識もなく、何も考えずに靴を履いて日本を出たのは、初めての海外旅行だった1973年のことで、熱帯の旅は暑くて、靴のなかが汗でぐちゅぐちゅになるのがたまらなく不快で、インドでサンダルを買った。おもしろがって革サンダルを買ったものだから、底が薄く歩くと脳天まで衝撃が走り、緒ずれに苦しんだ。ビーチサンダルを買えばよかった。
だから、翌74年はサンダルを履いて日本を出た。旅先でサンダルを買うくらいなら、初めから日本で履き慣れているサンダルを履いて旅に出ればいいという考えだった。このときのサンダルは、いわゆるビーチサンダルで、現在の常識では「何を考えているんだ。グアムやハワイに行くならともかく、家を出るときからビーチサンダルは非常識だろ」という批判を浴びそうだが、当時はなんの不思議も感じなかった。流行に乗ったのではなく、あの当時、リュックを背負って旅する若者はサンダル姿というのは珍しくなかった。ただ、サンダル旅行者にも2種類あって、空港などでは靴を履いていて、宿に着いたらサンダルに履き替えるというタイプと、ハナからサンダルだけで旅するタイプの者もいて、私は後者だった。日本を出るのが冬だったら靴を履いていただろうが、日本を出るのはいつも「サンダルにもってこいの季節」だった。考えてみれば、私の旅はいつも「サンダルにもってこいの場所」だった。
バリ島にいるときに、ビザの延長をすることにした。出入国事務所に行くと、門に絵があり、「こういう人物は、この建て物に立ち入り禁止」と書いてある。禁止されている姿は、ランニングシャツ(当時は、タンクトップという言い方はなかった)、半ズボン、サンダル姿だ。私は半袖シャツと長ズボンは持っているが、靴を持っていない。あわてて、宿に戻り、西洋人のでっかい軽登山靴(私の足は25センチしかない)を借りて、ぶかぶかという音とともに、事務所に入り、ビザの延長許可を得た。
それ以後、欧米と取材で出かける場合を除いて、常時サンダルで旅している。ビーチサンダルは長距離を歩くにはふさわしくないので、足をしっかり固定できる厚底革サンダルを愛用している。
今回は10月の出国だから、素足では寒いので、靴下を履いた。靴下にサンダルというのは西洋の中高年によくある姿で、素足を人前にさらすものではないという美意識があるらしい。ビーチや海辺を除けば、素足になるのは浴室か寝室なので、そういう姿を人前にさらすのは、裸で歩いているに等しいと考えているようだ。
1960年代にヒッピーと呼ばれる人たちが現れ、公園や歩道を裸足で歩いたのは、「裸足は原始的。恥ずかしい行為である」という感覚に対抗する意識だった。ヒッピーの次にそういう感情を壊したのが、多分オーストラリア人だろう。
コロナ前はヨーロッパに行くことが多かったから、サンダルを履いて日本を出た最後はいつだったか調べてみると、2012年にマレーシアに行ったときだった。それが、前回のマレーシア旅行だから、今回は13年ぶりということになる。高校野球風に言えば、「13年ぶり15回目」の入国というとこになるから、強豪校とか名門校と呼ばれるにふさわしい位置だ。「入国15回」というのは、「まあ、そんなもんかな」と想像しただけで、調べたわけではない。今回行く予定のマレー半島東海岸は、およそ40年ぶりというとこになる。
東海岸は40年でどれだけ変わったか。クアラルンプールは、13年ではたして変わったのか。そのあたりが、今回の旅のチェックポイントのひとつだが、それが旅の目的ではない。今回の私の旅に、「旅を楽しむ」以外の目的はない。