2333話 マレー紀行 2025 2 観光税

 インターネットで「マレーシア旅行」を検索すると、ありきたりの観光情報を除けば、あまり評判がよくない。「おもしろくない」という意見が少なくない。そういう感覚は、実はよくわかる。私も、同じように感じている。マレーシアは生活するには便利だが、「散歩していて楽しいか」というと、「1度は楽しいが、再訪しようとはあまり考えないんだよな」ということだ。そういうことはわかっていて、今回マレーシアに行こうと思ったのは、うまい飯を食いたかったからだ。

 1973年に旅を始めてから、熱帯の飯を5年以上食べていないなどということはなかった。2019年にバルト3国旅行の前後にバンコクに立ち寄って食事をして以後、熱帯の飯を口にしていないから、その禁断症状が出てしまったのだ。日本で3度タイ料理を食べてみたが、タイ人が料理をしているというのに、いずれも「なんだよ、これ!」と言いたくなる料理で、やはり熱帯に行くしかないと思った。タイに行くとタイ料理だけだが、マレーシアに行けば、マレー、中国、インドの料理が食べられる。タイに行く前に、まずはマレーシアだというのが今回の旅である。

 私が何度もマレーシアに来ていたのは、バンコクで暮らしていたときに、ビザの切り替えで来たからだ。その当時、タイの観光ビザは60日間滞在可能で、望めばあと30日延長できる。合計90日を超えて滞在することはできないから、1度国外に出なければいけない。外国でまたビザを取って、入国することになる。まだラオスカンボジアベトナムは自由に旅行できる時代ではなかったから、気軽に安く出国できるのはマレーシアだけだった。

 ある年のこと、バンコクから夜行列車でマレーシアに入り、すぐにペナンのタイ領事館に行って、ビザ取得の手続きをした。その日の午後にビザを受け取った(記憶がはっきりしないから、もしかして「翌日受け取り」だったかもしれない)。そのままタイに戻ることもできるが、そのころ、毎回違う国境からタイに入ろうと考えていたから、翌朝出るバスでマレー半島の山に入った。

 国境で、出入国係官が私のパスポートを見て、言った。

 「1日だけの滞在か。そんなにマレーシアが嫌いか?」

 マレーシアが嫌いというわけではないが、タイ南部の方がおもしろそうだったから、そういう日程にした。

 マレーシアの評価が低いというのではない。正確に言えば、魅力に乏しいのだ。ボルネオの大自然には興味がない。ビーチが魅力なのだろうが、私はビーチにまったく興味はないし、ビーチ好きはタイの海を選ぶだろう。「ああ、マレーシア! 心が躍る、揺さぶられる」といった感動がないのだが、そういうことはすでによくわかっている。名所旧跡にも買い物にもまったく興味がない旅行者だから、毎日ぶらぶら散歩できればいい。うまい飯が食えればいい。「うまい飯」は、街のその辺の飯がいい。雑誌やネットで大絶賛の店や予約しないと入れない人気店などに用はない。

 マレーシアのどこも、京都のように、ベネチアのように、観光客が押し寄せて住民の日常生活がどうにもままならないというようなことは、ない。多分、例外はマラッカだけだろう。あそこも、中国人観光客が押し寄せるまでは、眠くなるような静かな街だった。離島が混むのは、もともとホテルが5軒しかないといった事情によるもので、「マレーシアがオーバーツーリズムで苦しんでいる」という話を耳にしたことがない。ホテルも、まあ、すいている。予約サイトでは大幅割引をしている。宿泊料金を高く設定していて、割引料金で安そうに売るという商法はあるだろうが、「ホテルは満室状態で、どんどん値上がりしている」という情報も耳にしていない。

 それなのに、2017年に観光税を導入した。1人1泊につき10リンギット(日本円380円相当。旅行時)の税金だ。ドミトリーではベッド1台に10リンギットの観光税だという。ベネチアバルセロナのように、観光施設費用捻出と観光客数削減を目指して観光税導入というのならば、わかる。しかし、マレーシアにはそれほど観光客はいないのに、観光税を導入するという。観光客誘致のために施設を整える。その費用を捻出するための観光税だというが、それは本末転倒だ。マレーシアのビーチでひと月ほどのんびり過ごそうと思うと、観光税だけで300リンギット(1万1400円)だ。それなら、タイのビーチで過ごした方がいいと旅行者が考えるのは当たり前だ。

 こういうことは、観光諸団体と深い関係にあるトラベルライターは書かない。