イポーに着いたのは昼過ぎだったが、宿まで歩いて行ったからけっこう時間がかかった。2キロ弱の距離なら、荷物(ショルダーバッグ)を肩にかけたまま歩けるなと想定し、実際歩いて行った。こういう移動をしたいから、ゴロゴロ・キャスターのトランクは使わない。でこぼこ道を歩けば、すぐにキャスターが壊れてしまうからだ。汗で背中が濡れるのが嫌なので、1982年のアフリカ旅行以後リュックも使わない。

宿に着いたが、近所に飯屋が見当たらない。自動車修理工場とか部品販売店など「鉄」の匂いは強いが、食い物の気配は感じない。
宿で「この近所に飯屋はあるの?」と聞くと、ホテルの裏を指さし、「あっちに、いくらでもあります」といった。
その裏手に回ると、飯屋は2軒しかなく、1軒はすでに閉まっている。もう1軒は今まさしくシャッターを下ろしているところだ。時計を見る。3時前だ。昼の部、終了か。
さて、困った。腹が減った。あたりに、人がいない。眠くなるような地方都市の午後だ。商店の駐車場の脇の日陰で、スマホ遊びをしている若者がいた。中国系の顔つきだ。気の毒に、腹を減らせた旅行者に見つかってしまったのだ。
「すいません。この近所に飯屋はありますか?」
「あそこが・・・」と、右手方向を指さした。
「あそこは、今、シャッターを閉めたところです」
「え、そう? 今営業しているところだと・・・」と首をひねり、「向こうに・・・」と大通りの反対側を指さす。「車で?」
「いや、歩いて」
「ええ? 歩いて?」
「ええ、今、駅から歩いてきたから。歩けますよ」
そこに登場したのが、この店の社長の娘という感じの人で、愛嬌があっていかにも利発という感じがする。
「ねえ、なんの話?」
いままでのやりとりを説明した。「あそこはどう?」「いや、今はやってないだろ」といった会話が交わされた。私のために英語で会話している。スマホの地図で教えてあげるといってくれたが、我が1円スマホでは地図は使えない。楽天スマホでgoogle mapが姿を見せるまで待つと、日が暮れる。
そこに第3の人物登場。社長の息子か。3人で私にもっとも適当な店を選考し、そこへの道を説明しているうちに、息子が「えーい、めんどくさい。道の説明をしているより、車で案内した方が早い。さあ、乗った」
そういういきさつで、私は三菱ピックアップトラック・トライトンに、「よいしょ」と乗り込んだ。床が高いから、よじ登らないといけない。この車は、タイ製のはずだ。
「イポーは、郊外に新しい街ができていて、広がっているんです。だから、昔からの街の中心はさびれてきて、観光客が喜びそうな場所はなくて・・・、このあたりにちょっとインド料理店があるけど、インド人街は郊外にできているし・・・、さあ、ここです。評判の店です」。5分もかからないドライブだが、歩いたら30分はかかるだろう。
中国料理の食堂だ。客はほぼ満席状態に近い。
「ありがとうございます」と言って車を下りようとしたら「僕も、何かちょっとつまみたいので・・」と言って車を降りた。
テーブルを確保し、「適当に注文するね」といって、点心を何種類か注文した。当然、私には支払わせない。マレーシアの店が全部そうだというわけではないが、こういう食堂では料理や飲み物がテーブルに届いたときに支払うというシステムになっていることが多い。食べ終わった客がさっさと店を出ていくのをいぶかしく思っていたが、代金引換システムだったのだ。