2357話 マレー紀行 2025 26 マレーシア語 1

 いままでマレーシア語を勉強したことがないから、出発直前にマレーシア語の教科書を買ったのだが、「どうせ勉強しないな」と自分をよく知る自分が顔を出し、旅には持って行かなかった。

 マレーシア語を勉強したことはないが、インドネシア語はちょっと独習したことがあり、その後、基礎の基礎を学ぶために、インドネシア語教室に通ったことはある。その大部分はきれいさっぱり忘れてしまったが、マレーシアを旅するうちに、少しずつ思い出してきた。街角の表示を見たり人々の会話を聞いていると、わかる単語がときどき出てくるが、ひとつふたつの単語がわかったからと言って、会話全体がわかるわけはない。

 マレーシア語とインドネシア語は、明治期の江戸弁と大阪弁ほどの違いはなく、素人が知ったかぶりをすれば、イギリス英語とアメリカ英語くらいの違いだろう。単語の違いはいくらでもあるが、それぞれが勝手にしゃべっても、相互にかなり理解できる言語である。

 もともとは、マラッカ海峡地域で交易用に使われてきた共通語がマレー語(Bahasa Melayu バハサ・ムラユ)だ。マレー(Malay)は英語。インドやアラビアや中国などの言葉も混ざっている。この地が西洋の植民地になったことで、イギリスの植民地となったあと独立したマレーシアは、公用語をマレー語に決めたが、その名称をマレー語のままでいいという説と、マレーシア語(Bahasa Malaysia)がいいという説のいずれも強く主張されていて対立している。マレーシアで使われてきたマレー語は、イギリスの植民地だったという歴史があるので、英語の影響を強く受けている。

 のちにインドネシアとなる地域はオランダの植民地だったので、オランダ語が数多く入っている。多くの国では、公用語を決めるときは、通常なら首都で使われている言語を公用語にするのだが、首都ジャカルタがあるジャワ島のジャワ語は、敬語が非常に複雑で、インドネシア全土で使う公用語にはふさわしくないということで、交易上の共通語として長く使ってきたマレー語を、公用語として採用し、その名称をインドネシア語とした。歴史を考えれば、マレーシア語もインドネシア語も「マレー語」ということになるが、ここでは話を明確にするために、便宜上マレーシア語、インドネシア語というふうに呼び分ける。

 マレーシア語とインドネシア語では、こんな違いがある。

 例えば、食堂。マレーシア語ではrestoranで、英語からの借用だとすぐにわかる。kedai makan(直訳すれば、食べ物屋)ともいう。インドネシア語ではrumah makan(家・食べる)という。マレーシアでは、英語の借用語が多いから、想像力を働かせると、何となく意味がわかってくることがあり、しかも英語の表記も多いので、街を散歩しながらマレーシア語の謎解きもなかなか楽しい。

 例えば、こういう単語だ。

 bas(バス)

 teksi(タクシー) インドネシア語も同じ。

 TV(テレビ、発音はティーヴィー)

 telefon(電話) インドネシア語ではtelepon

 soket(コンセント)

 lampu(ランプ、照明器具全般、電気)

 bank(銀行) インドネシア語も同じ。

 stesen(駅) インドネシア語ではstasium

 feri(フェリー)

 Melaka(英語でMalaccaと呼んでいる地名。私の耳には、ムラッカともマラッカとも聞こえる)

 syampu(シャンプー)

 bateri(電池)

 gelas(コップ,発音はグラス)

 石鹸はマレーシア語でもインドネシア語でもsabunといい、タイ語でもサブーという。「おお、シャボンじゃないか」と連想が湧き、元はポルトガル語だったのかと納得したが(オランダ語はzeep)、さらに調べればアラビア語のシャブンだったのかと納得すれば、「いやいやラテン語ですよ」という説がでてきて、この語源遊びは花盛り。ひとつのことを、世界各国で同じような語で表すというのは、「コーヒー」や「茶」に近いが、こちらは大本はわかっている。

 タイ語で苦しめられている身としては、ローマ字で表記する言語ははありがたく、声調がないから発音は簡単で、ヨーロッパの言語のように性や時制や格などさまざまな変化はないし、誰でも辞書を引くことができる。しかし、「ありがたい」と思うのは最初だけで、すぐにめんどくささにぶち当たる。