暑い。甘すぎるが、氷を溶かしながら飲めば、少しはましになると思いつつ、アイス・ミルクティーを注文した。
「Teh es」(テ・エス)というと、飲み物屋台の若い男はニヤッとした。「インドネシアへ行った?」
あ、そうそう、と気がついた。私が口にしたのはインドネシア語で、マレーシアでは「Teh ais」(テ・アイス))なのだという体験はもう20年以上も前のクアラルンプールでのことだが、いまでも注文するときに、esとaisを意識している。
インドネシアに初めて行ったとき、「エス、エス!」と言いながら、道を歩いて来る男がいて、注目していると、脇に抱えたジャーからアイスキャンディーを取り出している。食堂のメニューを見ると、”Teh es”という文字が見え、英語のiceがesに変わったのだと理解した。その後、少し知識が増え、esはオランダ語なのだと解釈した。それから長い年月が流れ、オランダ語辞典でesを調べたが見つからず、「氷」を調べると、ijsという単語が出て来た。このつづりで、発音はアイスだ。これが発音しやすく読みやすいesに変化したのだろう。マレーシア語のaisは、英語iceの発音をローマ字化したものだろう。
ちなみに、「es 氷」をネットでで調べていたら、Eisbahnという語が見つかった。ドイツ語だ。日本語ではアイスバーン、路面凍結だ。英語に直訳すれば、eisはice、bahnはlaneとかtrackの意味だが、ドイツ語eisがインドネシアに入ったとは考えにくい。ちなみに、路面凍結は、英語ではicy roadやicy surfaceという。
マレーシアのコーヒーと紅茶の話をしよう。
コーヒーはkopiという。タイ語やフィリピンの言語を含めて、f音がp音に変わる言語の話を始めると長くなるので、寄り道はしないが・・・、ああ、ちょっとだけ。フィリピンできなり「ピスは好きか?」と聞かれた。私が知っているピスはpiss(しょんべん)だから、「この人、何をいってるんだ!」といぶかしく思ったのだのだが、すぐにfishが訛ったのだとわかった。
先を急いで、コーヒー、kopiの話だ。
1987年に、マレーシアのコーヒーについて少し調べた。その当時、コーヒー豆100パーセントのコーヒーを出しているのは、ほぼ高級ホテルのコーヒールームくらいだった。街でそういうコーヒーが飲めるようになるのは、1982年開店のマクドナルドからだが、まだ「例外的」な存在だった。
マレーシアでkopiと呼んでいるのは、コーヒー豆を含んではいるが、そこにトウモロコシや砂糖、バター、ゴマなどの混ぜが入った物だった。フィルターを使って出すが、お汁粉よりも黒く、たっぷりの加糖練乳が入っているから苦味も酸味もほとんど感じることがない。アイスコーヒーなら「es」、熱いコーヒーなら「panas」という語をつける。「熱い」も「暑い」もpanasだ。昔ながらの食堂で出す熱いコーヒーは、「国定カップ」とでも呼びたくなるほど同じデザインのカップだった。そして、これぞマレーシアのコーヒーと言いたくなるのが、ティースプーンではなく、小さなチリレンゲがついていることだ。

中国系の食堂で出すコーヒーは、なぜかどこでもこういうカップを使い、プラスチックのチリレンゲがつく。砂糖の追加は小袋で。
1982年のマクドナルド、84年のセブン・イレブンの出店などで、少しづつコーヒー事情に変化はあったが、大きく変わるのは2000年代に入ってからだろう。1998年にスターバックスが出店し、その類似コーヒー店が街角やショッピングセンター内にできていった、コーヒー豆100パーセントかもしれないが、やたらに高額なコーヒーの登場だ。
その手の店はどこも、「カフェ・ラテ」とか「カフェ・マキアート」とか、多くのマレーシア人たちにとって意味不明の外国語メニューを載せ、とんでもない価格でコーヒーを売り出し、「そういう店でチュウチョすることなく注文ができる私」が自慢というヤカラが集まってくる店だ。その手の店が嫌いな私としては残念なのだが、スタバ類似店は増え続けている。
価格設定がどれほど高飛車かというと、この種の飲み物はだいたい20リンギット前後はする。同じショッピングセンターの食堂でセットメニュー(定食)を注文すると15~20リンギットで食べられる。街の食堂なら、10リンギットくらいで食べられる。日本円に換算すれば、飲み物が800円から1000円。食事が400円から600円という比較になる。
こういう高額コーヒー店は、高い店でコーヒーを飲んでいるセレブな自分、高い店のカップを片手にオフィス街を歩いている私にうっとりさせる装置で、世界各地で増殖しているのだが、アメリカでは、「コーヒーが高い!」と文句を言う人たちが増えて、スターバックスの店舗閉鎖が続いているそうだ。
今頃になってやっと気がついたのかい?