susuの話をしておこうか。店で「teh」とか「copi」と注文すれば、練乳入りの甘い飲み物だということは共通認識で、屋台なら客は通常氷入りの冷たい飲み物を注文しているのだろうと解釈されるが、食堂などの場合は、「熱いの? 冷たいの?」と確認されることがある。日本の喫茶店の「アイスですか、ホットですか」というのにも似ている。

kopi panas(熱いミルクコーヒー)とフレンチトーストの朝食を、ついつい注文。コーヒーにチリレンゲ、フレンチトーストにはスプーンとフォークという伝統的スタイル。
はっきりと「ミルク・コーヒー」と言いたい場合は、「kopi susu」というのだが、このsusuがちょっと問題だ。susuはミルクと訳されることが多いが、正確には「乳」である。人間であれ他の動物であれ、乳房から出てくる液体と同時に、乳房そのものもsusuという。
日本人「すすむ」さんは要注意というジョークがある。susuは乳房、muは「あんたの」という意味だから、インドネシア人の前で「すすむです」と名乗ると、「あんたのオッパイ」と聞こえるというジョークは、駐在日本人の間では有名だったらしい。
インドネシア語研究者たちが作ったエッセイ集『インドネシア語の中庭』(佐々木重次編著、Grup sanggar、2001)は、「少年マガジン」のように大きく厚い本だが、そこにsusuの話が出てくる。kopi susuというと乳房を連想するので、kopi milkという人がいるという書き出しで、それはジャワのことで、インドネシア全域では普通にsusuを使うとある。だから、「すすむ」で笑うのは、昔々の日本人おやじジョークということらしい。
インターネットでインドネシア語情報をあれこれ探っていると、「ブラジャー」が出て来た。やっぱりなと思った。乳房とは関係ないが、関係あるのだ。
今回も、耳にした。広い歩道の向こうから女子高生のグループが歩いて来る。すれ違う時、「ブラジャー」という語が耳に入った。この語は、インドネシア語学習者の入門編で必ず学ぶ単語で、belajarと書き、「ブラジャー」と発音する。「勉強」という意味だ。似た単語でpelajarだと「学生」の意味になる。
ちなみに、下着のブラジャーはbraとかBHというという説明がある。braはわかるが、BHは何の略だと調べてみたら、オランダ語だった。歴史的名称といってもいい。インドネシアにはないものだから、オランダ語をそのまま使い、略語となって今でも使っているということらしい。BHはオランダ語bustehouderのことで、連想でbust holderという英語が浮かぶ。直訳は「乳支え」か。
インドネシア語の下ネタジョークはいくつか知っているが、あまりに品がないから、ここで紹介する気はないが、知っておいた方がいいのかもしれないという気もする。
バンコクとジャカルタで同じ経験をしたことがある。外国語初心者にありがちな行動なのだが、目の前の文字を読みたがるというクセがある。あるとき、知人とバンコクを歩いていたら、ホコリが積もっている車が路肩に駐車してあって、指で書いた落書きがいくつもあった。知人は、私がタイ文字の超初心者だということは知ってるから、「こんな言葉は読めないでしょ」と言った。「読めない」を「意味がわからない」ということならその通りなのだが、発音はできた。大声でそれらの語を読んで見せたら、知人は「シッ!」と制した。普段、タイ語の下ネタを仕掛けてくる知人なのだが、路上でそのたぐいの単語を大声で叫ばれる、オタオタ、あたふたしてしまったのだ。
ジャカルタでもまったく同じことをしでかし、隣りにいた友人をあわてさせ、「声が大きい!」としかられた。その時だって、意味がわかって叫んだわけじゃない。それほど厚顔ではない。「こう読むのかな」と思って読んでみたら正しい発音だったというだけだ。
このように、人前では口にしてはいけない言葉を集めたのが、開高健企画の『13ヵ国いうたらあかんディクショナリィ: 言ってはいけないことばの本』だ。時代遅れの言葉も多いが、まあ、暇つぶしにどうぞ。手軽に読める類書はあまりないし。