452話 カメラは、やはりファインダー

 
 帰国しました。
 この雑語林の202,203で写真とカメラのことを書いた。写真撮影は嫌いだが、どうしても必要な事態になったら、キヤノンのS100当たりを買うかと書いた。その後、予想もしていなかった状況になった。私が熱帯に出かけると知った編集者が、「では、その紀行文も書いて。写真もね」と依頼してきたのだ。私のような貧乏ライターは仕事を選べる立場ではないし、その編集者にはいつもお世話になっているので、「はい、わかりました」と答えたものの、カメラが困った。私が持っているデジタルカメラは、8年ほど前にもらったもので、当時としては最高級に近い650万画素のコンパクトカメラだが、なにせ、8年前のカメラだ。。
 天下のクラマエ師こと、蔵前仁一氏は、「そんな昔のカメラじゃ、ダメだよ。使い物にならないよ」というのだが、私は師と違って、カレンダーや雑誌の表紙になるような写真は撮れないし、写真展もやる気はない(実力もない)。だから、大きくても文庫本に使う写真程度でいいと言い、650万画素はそれほどひどい性能ではないと思った。それは今も正しいと思っているのだが、このニコンのカメラはとにかく使いにくいのだ。「オート」とか「動画」とかを設定するボタンが、すぐ回ってしまい、いつの間にか動画を撮影しているということがしばしばあった。また、35ミリ程度の広角では嫌なので、この際、買うかと、ちらりと思った。ただ、原稿料を考えると、新しいカメラを買うほどのことはないなどと思いつつ、ネットでコンパクトカメラ情報を探していたら、ニコンのP300が、とびきりよさそうだとわかった。24〜100ミリ、F1.8だ。しかも、安い。家電量販店で25000円ほど。通販だと19000円くらいで買える。さて、どうしよう。仕事で使うなら、もうちょっと使いやすいカメラが欲しい。しかし、今回買っても、次に使うのは5年後だとしたら、わざわざ買うのは無駄だということになり・・・・と、うだうだ考えているうちに、通販で買うには時間切れになり、だからと言って量販店で買うのは高いしと思い、結局買わなかった。
 いま調べてみたら、P300はもう生産されていないようで、中古品がえらい安い。このひと月で、事情がすっかり変わっている。いま新品で買えるのは、P310だ。
 仕事としての撮影を、初めてデジタルコンパクトカメラだけでやって、クラマエ師が電話で言っていたことがよくわかった
「やっぱり、一眼レフでファインダーを覗かないと、よく撮れないんですよ。液晶だと反射したりして、見にくいことがあるよ」
そう、そうなんだ。液晶だと光ったりして見にくいから、面倒になって、画面の細部まで仔細に点検したりしない。真ん中あたりに映っていれば、いいかといういい加減な写真になってしまう。
 いままでずっと一眼レフを使い、ファインダーで画面を見ることに慣れていると、どうも、液晶はいけない。神経の集中ができないのだ。デジタルコンパクトカメラで、ファインダー付きというカメラもあるが、高い。それなら、もう一眼レフにするか。それとも液晶で我慢するかなどと考えても、今は無駄。買わないのだから。旅から帰ってきたら、もういらない。
 さて、旅行者のカメラで気がついたことがあった、マラッカ(マレーシア)は、観光客が集まる場所があって、そういう場所に普段は行かないのだが、何か変化はあったのか確認したくて、30年ぶりに行ってみた。そこで、旅行者のカメラ調査をして驚いたのは、カメラを手にしているか首から下げている旅行者の、なんと8割が、一眼レフなのだ。基本的に、観光客のほとんどはアジア人だ。シンガポール、マレーシア、台湾、香港、韓国、中国などだ。そいう旅行者の8割が一眼レフで、カメラを手にしている人のほとんどが、20代後半くらいの女なのだ。日本で、「若い女性に、一眼レフが人気」などと言うニュースは読んだことがあるが、日本だけじゃなかったのだ。8割が一眼レフで、1割がコンパクトカメラ、1割がスマートフォンなど。一眼レフを持っている男は、プロカメラマンという感じの人だった。ミラーレス一眼は、持っている人はふたり見ただけ。まだ浸透していないようだ。旅行者が持っているデジタルカメラで、もっとも古く、性能の低いカメラが、私が仕事で使ったニコンなのですよ、きっと。
 過去に、仕事として写真を撮ってきた者には、一眼レフを持っているということなど、ちっとも格好いいなどとは思わないのだが、彼女たちには、でかいカメラが、きっとりりしく見えているのだろう。