2067話 続・経年変化 その33

読書 9 ガイドブック 2

 手元にあるタイのガイドブックをアマゾンで調べると、半分くらいはヒットした。その売価は数百円から数万円までいろいろあり、1990年代のものが全部高いというわけでもなく、値付けに意味はないようだ。手元のガイドブックのすべての販売価格を想像すると、合計は数十万円になるかもしれない。つまり、新たに全部買いなおせば、数十万円の資金がいるということだ。『ブルーガイド 韓国』の1980年版の売価は5万円だから、合計数十万円というのはけっしておおげさな予想ではない。しかし、もし手持ちのガイドブックをすべて売却すれば、古本屋の買取価格合計は良くてもせいぜい数千円だろう。旅行資料に関心がある古本屋で、たぶんその程度だろう。普通の古本屋なら「ゴミ」扱いで、買取不可だろう。それが、ガイドブックの現実だ。

 タイの旅行ガイドは、日本語のものは国会図書館にかなりあるが、英語のものはロンリープラネットのものが数冊あるだけだ。私の手元には、1984年版と87年版の”Thailand a travel survival kit”があるが、国会図書館にはない。この2冊はバンコクの古本屋で買った。次のような資料だと、日本のほかの図書館には多分、ほとんどない(京都大学東南アジア地域研究研究所の図書館にはかなりの資料があるはずだ)。

 “Guide to Bangkok with Notes on Siam”(Erik Seidenfaden) ・・・手元にあるのは、1928年にタイ国鉄が発行した第2版をオックスフォード大学が1984年に復刻したもの。バンコクの新刊書店で購入。1500バーツくらいだっらような記憶がある(当時、3000円くらい)。現在、アマゾンなので、送料込みで100ドルくらいする。

 “A New Guide to Bangkok(Kim Korwong&Jaivid Rangthong,Hatha Dhip,Bangkok,1950)…ネット古書店で購入。売主はサンフランシスコだったかシドニーだったか覚えていない。

 “Guide to Bangkok(Margaretta B.Wells, The Christian Bookstore,1966)・・・これは立教大学図書館で見つけた。「タイの物価が高い」という記述が興味深い。レストランシアターの夕食が、5米ドルだ。植村直己アメリカに渡った1964年の労働者の日給が6ドルだ。タイが自国通貨を高く設定していたから、外国人には高額だったようだ。これは当時のインドネシアも同じ。

 “Guide to Bangkok Thailand”(The Pramuansarn Publishing House,1970)・・・休暇でタイに来た米兵向けのガイドブック。バンコクの古本屋で購入。ベトナム戦争当時のタイと米兵の関係がよくわかる。このように、英語の資料となれば、国会図書館よりも多分私の方が持っているだろう。

 1980年代初めまでの海外旅行資料、たとえば弱小旅行社のパンフレットやチラシ、ミニコミかそれに近い雑誌などを大量に持っていたのだが、82年にアフリカに行く直前に、ほとんどの資料を旅行雑誌「オデッセイ」の編集部に勝手に持って行った。もしかして、アフリカで死ぬかもしれないから、貴重な資料を託しておこうと思ったのだ。

 何度も書いてきたが、観光学は、観光で利益を受ける企業や団体・自治体側の学問だから、観光立国だの町おこしなどの資料は提供するが、実際に旅をしてきた人たちの足跡には興味がないようだ。旅行会社がいかにツアーを売ったかとか、航空会社がどんな宣伝をしたかといった記録はあるが、客である日本人がいかに旅したかという記録はほとんどない。そんなことを研究してもカネにならないからだ。企業や自治体からの研究費援助もないだろう。インドでも中国でも韓国でも、ガイドブックに見る日本人の旅行史をていねいに掘り下げたら興味深い研究になると私は思うのだが、そういう考えはどうやら異端らしい。旅行研究が経済学や商学だけでなく、異文化体験にも足を踏み入れるといいのだが・・・。「旅行でカネ儲けをするのが悪い」などとはまったく思っていないが、「いかにうまく儲けるか」しか考えていない学問はさみしい。