1609話 本で床はまだ抜けないが その17

マンガ 3 録画してあった映画「喜劇 女は男のふるさとヨ」(森崎東 1971)を見た。森繁久彌主演ということで見たのだが、映画冒頭1分が、1971年の新宿南口や歌舞伎町の都電線路跡(現在の四季の路)が現れて、その風景は私がうろつき始めたころの新宿だった…

1608話 本で床はまだ抜けないが その16

マンガ 2 『ブラックジャックによろしく』(佐藤秀峰)は、かねがね気になっていて、ブックオフで安く売っていたので、結果的に全巻買って読んだ。いまさら言うまでもないが、傑作だ。若手の医者たちを取り上げたテレビ番組で、このマンガを読んで医者を志…

1607話 本で床はまだ抜けないが その15

マンガ 1 マンガをあまり買っていない。少年時代からそうだ。理由は簡単、30分で読み終えるマンガを次々に買ってもらえる財力がなかったからだ。私は昔の幼稚園児だったから、小学校入学以前は読み書きができなかった。それでも、近所の友人が持っているマン…

1606話 本で床はまだ抜けないが その14

関連読書 こんなに長くなるとは思わなかったので、見出しタイトルをつけなかったのだが、内容がひと目でわかるように、今回からタイトルをつける。 本の情報は、どうやって仕入れたのか。「書店で見かけて」というのが、かつては多かった。 本屋で見かけた本…

1605話 本で床はまだ抜けないが その13

30年近く前の話だ。半年ぶりにタイから日本に戻ったら、面倒な事が起きていた。姉の話によれば、長年空き家になっていた隣家がついに売却することになり、その隣りの住民である我が家に、「買いませんか、安くしますよ」と不動産屋がセールスに来たという。…

1604話 本で床はまだ抜けないが、その12

旅行中、「荷物が全部盗まれたら、きっと楽になれるなあ」と思うことがある。もともと私の旅装は少ないしそれほど重くはないし、旅行中に物を買うことはほとんどないのだが、汗臭い服で旅したくないから、服は少し多めで、時に本を買いすぎてしまうことがあ…

1603話 本で床はまだ抜けないが その11

昔のガイドブックを買い集めているのは、コレクションするためではもちろんなく、旅行地の変化が記録してあるからだ。アジアの場合、住宅地にショッピングセンターができたり、安宿街ができたり、新たに橋がかかったり、鉄道ができたりといった変化をガイド…

1602話 本で床はまだ抜けないが その10

増えすぎた本を処分することはよく考える。1冊1冊、売るか売らないか選ぶのは面倒だから、いくつかあるジャンルのなかから、ひとまとめにして売ってしまうなら、どのジャンルにするか考えた。 例えば、この5年ほどの間にそのジャンルの本はほとんど、ある…

1601話 本で床はまだ抜けないが その9

私が、「こいつ、嫌なヤツだな」と顔をしかめたくなるのは、書店で平積みになっている本を1冊1冊慎重に検品し、合格した本だけを買うヤツだ。他人の邪魔を考えず、平台を占拠して検品し、買っても読まず保存するようなヤツ。たまに書店でそういう男を見かけ…

1600話 本で床はまだ抜けないが その8

今、この文章を書いているのは6月下旬だが、今朝のニュースで2か月前に立花隆が亡くなっていたと報じている。今回のコラムのテーマに即して考えると、通称「猫ビル」の仕事場に詰まっている蔵書の行方が問題だ。立花はコレクターではない。財力を世界の稀覯…

1599話 本で床はまだ抜けないが その7

「インターネット書店はピンポイントで本を探すから、狭い知識しか得られない。興味を広げることができない。でも、本屋で棚を渡り歩いたら、知らない分野の本や、知らない著者の本に出合う。思いがけない出会いが、書店にはある」 読書家を匂わす人物が、ラ…

1598話 本で床はまだ抜けないが その6

ある人の話では、蔵書数が5000冊を超えると、すでに買った本か、まだ買っていない本かの区別があいまいになり、同じ本をまた買うようになるというのだが、「すでに買ったかどうか」よりも「すでに読んだかどうか」を覚えている方が重要だと思う。 1595話で、…

1597話 本で床はまだ抜けないが その5

私の読書は旅とも連動している。特に、旅の話をこのブログで書くようになって、旅の前に資料の収集をやり、ブログの文章を買きながらさらなる資料を収集しているから、1回の旅で資料は段ボール箱ひとつかふたつ分になる。本棚の既得権は、アジア、食文化、…

1596話 本で床はまだ抜けないが その4

ギリシャから日本までの旅行情報をコンパクトにまとめた『アジアを歩く』(深井聰男、山と渓谷社、1974)は新書版サイズで850円。交通図が出色で、現在でもこれほど優れたものはない。どういう図かというと、北海道の鉄道路線図にバスの路線図を組み合わせた…

1595話 本で床はまだ抜けないが その3

雑誌「旅」で、戦後日本人海外旅行史を連載していたとき、旅行と映画、音楽、旅行記、放送、食べ物など各テーマをそれぞれ独立させて、いずれ単行本化したいと思っていた。例えば「映画と海外旅行」をテーマにした本なら、007シリーズや、石原裕次郎など日活…

1594話 本で床はまだ抜けないが その2

私の図書購入量の推移をグラフにすると想像したら、どうなるか。中学時代から徐々に右上がりになっていくが、上昇の角度がちょっと上がるのは20歳を過ぎて、海外事情の本を買い集めるようになってからだ。ライターになった20代後半に購入量が増えていき、一…

1593話 本で床はまだ抜けないが その1

神保町の古本屋のワゴンセールに『本で床は抜けるのか』(西牟田靖、中公文庫、2018)があった。本の雑誌社から単行本で出た時から気にはなっていたが、不要不急の本だから、「まあ、そのうちに」と思っているうちに時間が流れた。 著者の蔵書は、2003年ごろ…

1592話 『全国マン・チン分布考』の話を、ほんの少し その2

少しは、この本の内容に則したことを書いておこうか。 バンコクで暮らしていたころのこと、友人と路地を歩いていると、土ボコリをかぶった自動車が路肩に停めてあり、車体に指で書いた落書きがあった。 「あれ、読める?」と彼が指さしたので、すぐさま「ヒ…

1591話 『全国マン・チン分布考』の話を、ほんの少し その1

「アホ」と「バカ」と言う語は、どこが境なのかといった分布を研究した『全国アホ・バカ分布考』を書いたTVプロデューサー松本修の新刊が、『全国マン・チン分布考』(集英社インターナショナル新書)だ。こういう本なので、アマゾンで内容はよくわかるから…

 1590話 小説家の紀行文

数日前から読んでいた本を今読み終わり、神保町の古本屋の店頭ワゴンにあった江國滋の紀行文「旅券(パスポート)は俳句」シリーズの『イタリアよいとこ』(新潮社、1996)を読み始めた。この文章を書いている今、気がついたのだが、この本が出た当時は、新…

1589話 忘れられた人

「人は二度死ぬ」という言葉がある。一度目の死は、肉体が死んだとき。二度目の死は、その人を記憶している人が死んだときだという。この言葉を広めたのは永六輔であり、一部には松田優作だとする説もあるが、「出典不明」とするのが正しいような気がする。…

1588話 カラスの十代 その21(最終回)

これは、おまけの話だ。 1980年代前半のことだが、私はアフリカ旅行の帰路、イスタンブールにいた。マラリアの療養の目的もあった。宿は、日本人旅行者に教えてもらったところだからは、日本人がよくやって来た。そのなかに、ヨーロッパを旅した後、陸路でイ…

1587話 カラスの十代 その20

このように文章を書いていと、次々と思い出がまた湧き出し、文章が長くなってしまう。前回の文章を書き始めたときは、校長のことなどすっかり忘れていたのに、「そういえば、卒業式で・・」と思い出して、加筆した。こうして、とどめなく文章が長くなる。 東…

1586話 カラスの十代 その19

高校時代のことを、こんなに長く書く気はなかった。落ち着いて考えてみれば、半世紀も前の話なのに、古ぼけた昔話には思えないところが、ああ、恐ろしい。 今年の4月の中旬ころだったか、音楽を聴いたり本を読んだりと、いつもの退屈しのぎをしていたら、何…

1585話 カラスの十代 その18

そろそろ20年近く前になる話だ。長らく外国生活をしている高校時代の友人が、久しぶりに帰郷するときに前川に会いたがっているという連絡が、年賀状だけは交わしている同級生からあり、会うことにした。高校卒業以来30年ぶりくらいになる。 20人ほどが居酒屋…

1584話 カラスの十代 その17

高校時代にあれやこれやと英語にまつわる話をしていた友人が何人かいる。皆、いつかは外国に行ってみたいと思っていた連中だが、考えてみればESS(English Speaking Society)のようなうさん臭そうな組織と関係のある者はひとりもいなかった。この「うさん臭…

1583話 カラスの十代 その16

昔のことを書いていると、思いだそうとしなくても、過去のいろいろな情景や言葉のやり取りが、どくどくと湧き出して来る。記憶を封印したわけではないが、干からびた地表を押し破り、思い出の地下水が湧き出して来る。 その編集者と再会したちょっとあとのこ…

1582話 カラスの十代 その15

建築作業員をしていたある日の朝のこと、現場が遠いうえに、現場で使う物を建材店で買ってから行くために、7時に事務所に集まった。2トントラックの助手席に座り、運転をする職人を待った。そのとき、車窓の脇を歩いてきたのが、高校の1年先輩で、何度か…

1581話 カラスの十代 その14

高校の卒業式の翌朝早く、ヤツといっしょに建設会社の事務所に行った。社長にあいさつすると、「今から仕事をすればいいさ」ということで、すぐさま建設作業員になった。建設業の朝は、早い。まだ7時過ぎだが、作業員はすでに来ていて、8時前に現場につける…

1580話 カラスの十代 その13

密航事件から数か月たち、成績不良の私でもなんとか高校を卒業することができた。温情の数学教師は、「サイコロを振って3が出る確率を求めよ」という問題で、30点くらいの配点をしてくれて、さぼり抜いた生徒たちも、これでなんとか卒業できることになった…