2002-01-01から1年間の記事一覧

12話 『東南アジアの三輪車』をめぐる本 3

すずらん通りで買った『リキシャ追跡』の著者名を見て、驚いた。トニー・ウィーラーだ。ガイドブックを出版するロンリー・プラネット社の創業者であり、社 長である。この本の著者紹介を要約すれば、こんなふうに書いてある。「パキスタンで生まれ、バハマと…

11話 『東南アジアの三輪車』をめぐる本 2

原稿はすぐに書き終えた。当時は手書きだったから、書き終えた原稿を段ボール箱に入れ、宅配便で旅行人編集部に送った。編集者であり、発行人であり、デザ イナーでもある蔵前さんの尽力で、半年ほどかかって本になった。1999年のことだ。なにしろ原稿が手書…

10話 『東南アジアの三輪車』をめぐる本 1

東南アジアの人力車や三輪車について調べていたころの話だ。 東南アジアの人力車や三輪車に関する英語の本を読んでいると、しばしば引用される文献があって、そのなかでどうしても読んでおきたい本が三冊あった。東 南アジアの都市交通に関する本と、ジャカ…

9話 タダでも

ある出版社に行ったら、編集者が早急に片付けなければいけない仕事があって、ちょっと待つことになった。 「5分ほどで済みますから、ちょっとすいません。そのあいだ、ここいら辺にある本で好きなのがあれば、どれでも持っていっていいですから。あっちの会…

8話 高価買取

古本屋には「高価買取」という看板がつきものだが、本当に「高価」だったためしはない。私は高校時代から古本屋で本を売っているが、店のオヤジはいつだっ て、「いま、本が安くてねえ」だの、「チリ紙交換で、本が安く仕入れられるから……」などと言って、予…

7話 情報の万引き

もう10年くらい前になるだろうか、新宿の紀伊國屋の社会科学の書棚で変な声が聞こえた。話し声ではなく、小声で早口でしゃべる声だ。なんだろうと思って 声の方を見ると、30代初めくらいの男がふたり棚の前に立っていた。ひとりは分厚い事典を開き、記事を読…

6話 気になる言葉

ある言葉を「間違いだ」というのは難しいもので、かつては「間違い」とされた言葉でも、時代の変化で「正しい」とされる例などいくらでもある。それはわかった上で、それでもひとこと言っておきたくなることがある。 例えば、「アルファベット」という語だ。…

5話 ガイドブックの制作費

スマトラのある街で、イギリス人の若者に会った。ハーバードの留学生である彼がスマトラに来たのは、旅行でも研究のためでもなく、仕事のためだった。ロン リープラネット社のガイドブック『インドネシア』の改訂版のために、旅行情報の確認作業を2カ月だっ…

4話 タイでロケした日本映画

前回の「太陽への脱出」に引き続いて、タイでロケした日本映画の話をしよう。ここ10年の映画なら「熱帯楽園倶楽部」などいくつかあるが、どれもあまりお もしろくない。古い映画なら、古い時代のタイの様子がわかり、それだけでも利用価値がある。というわけ…

3話 バンコクの週末市場

バンコクのドン・ムアン空港から都心に向かう途中にチャトゥーチャックという地区があり、そこに週末市場がある。初めはおもに食料品と衣料品を売る露店が 多かった。店は巨大なビ−チパラソルのような傘を立てるか、簡単なテント張りのものだったから、雨が…

2話 パソコン導入

機械があまり好きではないから、できることなら機械から離れて暮らしたいのだが、事情があってついにパソコンを導入した。事情というのは、膨大な調べものをしなければいけない連載を始めたのをきっかけに、やむなく導入を決意したのである。 もっとも多く利…

1話 旅本の編集者

この夏、ひとりの編集者が現場を去った。 旅行記がまとまって文庫で出版されるようになるのは、おそらく講談社文庫からではないだろうか。とくに、アジアの旅を、ほとんど書き下ろしで出版すると いう形態は、90年代なかばの講談社文庫からといっていいだろ…