2009-01-01から1年間の記事一覧
その昔、海外貧乏旅行の情報がほとんどなかった時代、1970年代までのヨーロッパ旅行なら、『国際ユースホステル・ハンドブック』が重要な資料だった。物価が高いヨーロッパの安宿ガイドだから、貧乏旅行者の愛読書だった。 ユースホステルはドイツで生ま…
このアジア雑語林の228号「1952年生まれの旅行者」で、星野道夫の高校時代のアメリカ旅行について少し触れた。 あの文章を書いたあと、高校生の星野の旅についてもう少し詳しく知りたいと思いつつ時間がたってしまったので、このさい『星野道夫物語』(国松…
読みたい本だが少々高いと、本当に読みたいのかどうか自問自答し、カネを出す価値があるのかどうかコストパフォーマンスを考察し、「よし、買おう」と決心して、その本をついに手にした瞬間は、なかなかの喜びである。 ただし、そういう本が、幸せな結末に至…
ビルマ文学の翻訳で知られる土橋泰子さんが書いた『ビルマ万華鏡』 (連合出版)は、いわば「ビルマと私」とでもいった前半の柱と、「ビルマ雑学ノート」とでもいった後半の柱の2本立てで構成されている。半世紀以上にもわ たる著者とビルマのつきあいを書い…
最近読んだ本の感想を書いてみる。 まずは、これだ。『タイ 中進国の模索』(末廣昭、岩波新書、2009)は、前著『タイ 開発と民主主義』(1993)の続編に当たる本で、それ以後の タイの政治や経済について解説している。末廣さんは研究分野の広さでも深さで…
映画「闇の子供たち」は、小説とはかなり違う構成になっているが、どちらが「まだまし」ということはない。 外国人が出てくる日本の小説や映画の場合、言葉の問題をどう解決するかが、私の重要な関心分野だ。通常のアメリカ映画なら、登場人物がロシア人であ…
小説『闇の子供たち』(梁石日)は、この世にもし「タイ検定」というものがあれば、「この本を読んで間違いを探し出しなさい」という設問の、絶好のテキストになる。校閲の練習本としては、なかなかに役立つ本なのだ。 ■例えば、タイ人と「抱き合う」につい…
テレビで、映画「闇の子供たち」(2008)を見た。出来が悪い映画だろうと思っていたので映画館には行かなかったのだが、テレビで見ても予想通りひどい映画だった。 そもそも、原作である小説(梁石日著)もひどかったのだ。主題がどうのとか、社会性がどうか…
テレビドラマ版「食客」を見ていて、日本ではテレビドラマでは絶対に扱えないテーマが登 場している。食肉処理人の話だ。その職業ゆえに、娘が結婚できなかったという差別される側のエピソードも入ると同時に、肉を切り分ける技術のすばらしさも 称えている…
韓国のマンガに「食客」というのがある。2002年から「東亜日報」で連載がはじまったホ・ヨンマン作の人気マンガで、映画化とテレビドラマ化されている。日本では、講談社から単行本で翻訳出版されている。 「食客」の映画版は見ていないが、テレビドラマ版は…
芸能とはまるで関係のない、マドロスの実録本を古本屋で買った。次の2点だ。 『懐かしのマドロス人生』(松倉宣夫、成山堂書店、2002)は、1961年に大阪商船に入社し、定年まで勤めた通信士が書いた本で、内容は、まあ、文 芸社だ。思い出話を書い…
私がちょっと調べただけだから、正解にはまだ遠いだろうが、映画の世界で初めて「マドロス」という語が出てくるのは、もしかしてフランス映画がらみかもしれない。 日本タイトルを「掻払いの一夜」(監督:カルミネ・ガローネ)という映画がある。1930年…
「マドロス」という語が、どの程度、どういう意味合いで使われていたのか、もっと調べて みたくなった。この語が日本に入ってきたのは幕末だとしても、「マドロス」という語のイメージから、どうしても岡晴夫や美空ひばりを思い浮かべてしまう。 やはり、1…
日本人の海外旅行史を調べていて、いつも気になりつつ、まったく手をつけていないのが 「マドロス」だ。歌謡曲に「マドロス物」というジャンルがあるほど、文化史研究には大きなテーマだ。マドロスは、なぜそんなに大きなジャンルになったのだ ろう。日本人…
昨今の若者は、酒を飲まなくなったという。あるいは、自動車に興味がなくなったという。 プロ野球ファンも減っているという。社員旅行を嫌い、社内の新年会や忘年会は、できるなら出席したくないという。そういうニュースを聞くと、私は時代を先 取りしてい…
皮肉なことになったと、つくづく思う。 小学生時代、映画に行くといえば親の好みが優先され、東映時代劇が好きだった父親に連れられて、大川橋蔵などの黄金時代の時代劇を何本か見た。近所に映 画館があるという場所には住んでいなかったので、映画など年に…
裕次郎関連の資料をまとめ買いしてみると、資料の正確さと文章のおもしろさで、百瀬博教 の手によるものが群を抜いている。はっきり言えば、ほかの便乗芸能本と「格が違う」のだ。百瀬は裕次郎の用心棒のようなことをしていた時代もあり、のちに 総合格闘技…
ここ1年ほどコツコツとやっていた「石原裕次郎の海外旅行」という研究テーマの基礎資料が、多少は集まった。日本人の海外旅行史の前史として、有名芸能人の海外旅行がどのようなものだったかという調査の一環だ。 1964年の海外旅行自由化以前は、カネが…
中年旅行者 沢木は、旅に対する最近の心情をこう書いている。 「残念ながら、いまの私は、どこに行っても、どのような旅をしても、感動することや興奮することが少なくなっている。すでに多くの土地を旅しているからということもあるのだろうが、年齢が、つ…
航空券売買 『旅する力』には興味深い記述が数多いが、「ホントかよ!」と思った話がひとつだけあ る。他人の航空券、それも女性の航空券で日本まで飛んだというのだ。沢木はパリでその航空券を買い、アエロフロートのパリ発モスクワ経由便で羽田へと飛ん で…
『旅する力』を巡る雑話で森村桂の話を書いた直後、古本屋で『森村桂 香港へ行く』を手に入れたので、番外として追加情報を書いておきたい。 『森村桂 香港へ行く』(森村桂、講談社、1970年、340円)は、古本屋で200円の値札がついていたが、レジ…
「話の特集」、そして檀一雄 1970年代は、私にとって「話の特集」と「面白半分」の時代だったとも言える。熱心に 雑誌を読んだのは、この10年間だけだ。以前も以後も、どんなジャンルの雑誌であれ、雑誌というものをあまり読んでいない。「話の特集」の常連…
香港 1974年に日本を出て、75年帰国した沢木の旅は、帰国した翌年の1976年暮れに初 めて活字になった。76年12月に発売された「月刊プレイボーイ」(1997年2月号)に、「飛光よ! 飛光よ!」というタイトルで香港旅行記を発表して いる。私はこの文章を、発売…
旅の持ち物 1962年に、太平洋をヨットで単独横断した堀江謙一の航海記『太平洋ひとりぼっち』に 出ている装備品リストについて、沢木は「一九六二年という航海時の時代性を感じさせる」例として、「サルマタ」や「落とし紙」という表記を紹介している。 そう…
『現代の旅シリーズ』 山と溪谷社が出した「現代の旅シリーズ」のラインアップは、出版年順に次のようになっている。 『北帰行』 渡部由輝 1973 『極限の旅』 賀曾利隆 1973 『旅の発想』 佐貫亦男 1973 『逆桃源行』 竹中労 1974 『ぐうたら原始行』 関野吉…
先人の文章 竹中労 文庫版の『深夜特急1』の巻末にある山口文憲との対談で、ロンドンまでの旅行前に影響を受けた人や本として、小田実の『なんでも見てやろう』を別格に、竹中労と壇一雄。そしてシルクロードを旅していた平山郁夫・江上波夫・井上靖の3人の…
旅行記の書き出し 沢木は『旅する力』の第一章「旅という病」で、『チャーリーとの旅』の冒頭部分を引用している。自宅に届いた『チャーリーとの旅』をすぐさま読んでみたが、もっとも記憶に残る文章は、いくつになっても旅への衝動は抑えられないと書く、こ…
ジョン・スタインベック 小説を読まない私でも、ノーベル賞作家スタインベックの名は、さすがに知っている。『怒りの葡萄』は、内容は知らないが、書名だけは記憶にある。『エデン の東』も、もちろん読んだことはないが、映画は見ている。その程度の知識だ…
旅のことが知りたい 2009年1月8日掲載の「本は買わないと決意したが・・・」を書いたのは昨年12月中旬で、その後年末までに新刊書だけでも30冊ほど買ってしまった。そのなかの1冊について、これから思ったこと、思い出したことなど、もろもろのことを書き綴…
田中がタイに渡った頃、「日本政府が困っていたのは、戦時中に発行した軍票の処理だっ た」というのだが、いくら調べても、日本の政府や軍がタイで軍票を発行した事実は出てこない。タイ研究者でなくても、これは「タイ特別円」のことだとわか るはずだ。日…