2011-01-01から1年間の記事一覧

377話 I will be seeing you

音楽の楽しみ方に「聴き比べ」というのがあって、私はけっこう好きだ。ある曲を別の人は演奏すると(あるいは歌うと)、どんな世界を見せてくれるのかが楽しいので、昨今流行の「過去のヒットソングを歌ってみました」というだけのCD(類似企画が数多くあ…

376話 韓国の夜間外出禁止令と断髪令

このアジア雑語林の369〜371話で書いた「ソウルのトンカス」のなかで、安宿で出会った日本人旅行者と早朝3時半まで話していたというエピソードに触れて、「なぜ3時半までだったのか」と疑問を書いた。重要なポイントは、当時まだ存在していた夜間外出禁止…

375話 人の顔の話と経営力の話

12月17日に阿佐ヶ谷ロフトAで行われた旅行人の会の話は前回の1回で終わっているのだが、最後に余計な3行を書いたために、続編を期待させたらしい。そこで、リクエストに応えて、少し加筆してみよう。 12月の初めだったか、蔵前さんから電話があって、「17…

374話 阿佐谷の古本屋

17日に旅行人の会があって、久しぶりに阿佐谷に行った。前回来たのは、何の用があったのか思い出せないが、5年ほど前だと思う。1970年代後半によく出没した阿佐谷北口はすっかり変貌していて、昔の面影はほとんどないことをその時に知った。80年代に入って…

373話 On The Road Againとバンコクの安宿

旅行関連のおもしろい本が読みたくて、アマゾンで遊んだ。”On The Road”というタイトルの本は、ケルアックの小説以外にも旅行エッセイで使いたがるだろうと予測して、このタイトルで検索したら、むしろ”On The Road Again”のほうで、いろいろな本が見つかっ…

372話 香港の食堂、茶餐廰(チャーチャンテン)

古本屋で見つけたその本の、書名にも著者にも心当たりがないが、おもしろいといいなという期待で買ってみたら「大当たり!」という嬉しい結果だったのが、『香港無印美味』(龍陽一、TOKIMEKIパブリッシング、2005)。著者は、この本の執筆時はある企業の香…

371話 ソウルのトンカス  3/3

昼食後も、宿に戻ってまだ雑談会が続いた。3時ごろになって、ちょっとお腹がすいた時刻に、うまい具合に、宿の庭に物売りのおばあさんが姿を見せた。お盆にのっているのは、のり巻きだとすぐにわかる。きょうの昼飯が、トンカツにうどん。街を歩いていて、…

370話 ソウルのトンカス  2/3

部屋の戸を開けると、すぐ前の縁側に座って話をしている男と女が見えた。私と同世代くらいだろう。女は長い黒髪で、肌はやや黒い。なかなかの美人だ。魅力的な人だ。 「おはようございます」と、挨拶した。 「ええ! 日本人だったんだあ? きのう、ここで見…

369話 ソウルのトンカス  1/3

その人をテレビで何度か見かけて、なぜだか心に引っかかるものを感じた。その人の名前も履歴も知らない。まして会ったことなどない。しばらくして、なぜその人が気にかかるのかわかった。昔会ったことがある人に、よく似ているような気がしたからだ。テレビ…

368話 銀座の長靴

新橋の用事は、思ったよりも簡単に終わった。まだ正午すぎなので、そのまま帰宅する気にはなれず、銀座を散歩することにした。土橋交差点方面に歩いていくと、古風な十仁病院の建物が消えているのに気がついた。いつのことかわからないが、すでに移転したら…

367話 日本最初の機内食の本

ひと月に1、2度、海外旅行関連の本のチェックをやっている。最近の調査でひっかかったのが、『空飛ぶビーフ はばたくチキン』(やまかづ、文芸社、2011)という本だ。アマゾンの説明を読むと、機内食の本らしい。 海外旅行をしたことがある人など、い…

366話 ドラマのリアリティー

「南極大陸」、だめだ。 「華麗なる一族」(予告編しか見ていないが)と同じように、木村拓哉が、「昭和30年代」の人物には見えないのだ。おもな不具合は、髪型(と髪色)だ。大道具や小道具や衣裳や美術などスタッフが、全力で「昭和30年代」を作りだそ…

365話 神田神保町古本市 2011

今年も、神田神保町の古本市に行った。大混雑に耐えてでも、わざわざ古本市にでかけるだけの価値があるとは思えなくなって、もう十数年たつ。かつて、この時期になると、ついつい神田に足が向かったのは、古本市のころが、私が神田に行くその年最後になり、…

364話 駐在員の異文化体験

その書名から、企業駐在員の異文化体験を考察した本だろうと想像して、見つけてすぐに注文したのが、『外貨を稼いだ男たち 戦前・戦中・ビジネスマン洋行戦記』(小島英俊、朝日新書、2011)なのだが、読んでみれば羊頭狗肉、看板に偽りあり、ビジネスマンの…

363話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  10

校正や校閲の話は、思い出せばいくらでも出てくるし、資料も豊富にあるものの、出版関係者以外にはあまり関心がないだろうから、このテーマの話は今回で最終回にする。 その編集部はもうこの世に存在しないから、書いてもいいだろう。私が体験した最悪の編集…

362話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  9

近所の図書館では、入り口そばに本が山と積んであり、「ご自由にお持ち帰りください」という表示がある。ちょっと前まで図書館で所有していた月遅れの雑誌や、図書館に寄贈されたものの、審査の結果、収蔵されなかった本などが、このコーナーで山になってい…

361話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  8

本の「あとがき」で、担当編集者に対する謝意が述べられているのはよくあることだ。ときには装丁者や資料提供者、あるいは家族への謝意が書いてあることもある。校正者の名前が入っている本は何冊かはあるだろうが、拙著『旅行記でめぐる世界』(文春新書、2…

360話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  7

こういう連載記事を書いているので、旧知の編集者に、校正・校閲の実情を取材した。いろいろ教えてくれたが、話をまとめれば、校正・校閲は編集者と校正者の腕と熱意と時間次第ということだ。 具体的な例をあげれば、雑誌に連載されている漫画の場合、ネーム…

359話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  6

校閲の大変さというものを、私の校閲読書で具体的に説明してみよう。校正読書あるいは校閲読書と言うのは、本を読んでいて、疑問に思ったことを調べながら読み進めていくことで、誰かに校閲を頼まれたわけではなく、本文の内容が気になると、先に進めなくな…

358話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  5

ロンリープラネットの誤字の話がおもしろくて、編集者に会うとその話をしていたことがある。すると、「じつは、ウチでも同じような・・・」と、秘密にしておきたい過去を告白してくれた人がいる。著者も校正をするが(これを著者校という)、本文の内容に最…

357話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  4

ある日、ロンリープラネットのホームページに何かおもしろそうな新刊がないか探っていたら、絶好の本が見つかった。”Once While Travelling : The Lonely Planet Story” By Tony & Maureen Wheeler というのは、解説によれば、世界最大の旅行ガイドブックを…

356話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  3

職業柄、日本語など言語に関する本や、校正について書いた本などもよく読むのだが、校正エッセイの傑作と言えば、元校正者で現小説家が書いた『活字狂想曲 怪奇作家の長すぎた会社の日々』(倉坂鬼一郎、時事通信社、1993。のち幻冬舎文庫、2002)だ。編集者…

355話 校正・校閲、あるいは編集者の仕事  2

それほど数は多くないが、新聞社から依頼されて文章を書いたことがあるのだが、あまりいい思い出がない。ライターとして新聞の編集者とつきあうのは、できれば遠慮したい気分だ。 その理由はふたつある。ひとつは、あらかじめ新聞社が決めたシナリオ通りの文…

354話  校正・校閲、あるいは編集者の仕事  1

何回かにわたって、校正や校閲の話を書く。いつもは、「1/3」のように、全3回の1回目といった表記をするのだが、今回は次々と書きたいことが浮かんできそうだから、「掲載回数不明」のまま出発する。 さっそく、始めるか。 インターネット上の文章を読ん…

353話 これは、陰謀なのか、それとも単なる忘却なのか 

つい最近、私のまわりでちょっとした事件が連続して起きた。読みたいと思った本がなかなか見つからないというのはよくあることなのだが、今回見つからない本は、重要度においてSクラス、つまり最重要資料に入る本なのだ。このひと月ほどの間に行方不明だと…

352話 阿佐谷時代  3 /3

山手線の車内で、偶然にもシローさんとでくわしたことがある。1980年代に入っていたと思う。 「おお、久しぶり。元気? なに、ヨドバシの帰り?」 私が手に提げている紙袋を指さして言った。 「PKRを、30本買ってきたところ。へぼライターのくせに、生…

351話 阿佐谷時代   2/3

75年の秋だったろうか、いつものようにシローさんのアパートに行くと、居候がふたりいた。シローさんがアフガニスタンで出会ったというスイス人の男がふたり、阿佐谷の6畳一間の若夫婦の部屋にもぐりこんでいたのだ。ふたりはこのアパートを基地に、仕事と…

350話 阿佐谷時代    1/3

1970年代の後半の私は、「阿佐谷時代」とでも呼びたい濃密な時間をあの街で過ごした。あの街に住んでいた訳でもなく、路地から路地へと四方八方と歩きまわったわけでもなく、阿佐ヶ谷駅(駅名は、阿佐ヶ谷。地名は東京都杉並区阿佐谷だからややこしい)から…

349話 LED電球の寿命と将来

新聞に入っていたホームセンターの折り込み広告に、「LED電球 驚異の寿命 20年間交換不要!!」というキャッチコピーがあった。ある資料では、白熱電球の寿命は、1000時間、電球型蛍光灯は6000時間なのに対して、LED電球は4万時間の寿命だという。1…

348話 蛇足だが、再び韓国関連の話を 

前回の文章を書いてすぐ、また、韓国関連のネタが見つかった。 前回、『食客』というマンガの話をしたが、ついさっき近所のブックオフで、『美味しんぼ』(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ)のテーマ別特集編『美味しんぼ ア・ラ・カルト11 ―うまさ爆発! 焼…