366話 ドラマのリアリティー

 「南極大陸」、だめだ。
華麗なる一族」(予告編しか見ていないが)と同じように、木村拓哉が、「昭和30年代」の人物には見えないのだ。おもな不具合は、髪型(と髪色)だ。大道具や小道具や衣裳や美術などスタッフが、全力で「昭和30年代」を作りだそうとしているのに、そこにいきなり、「仁」のように現代から舞い降りてきたタレント(学者じゃなくてね)としか見えないのが、どうにもつらい。さすが、堺雅人香川照之といったプロの役者は、あの時代の人間らしくしているが、主演が現代人のままというのが、演出者やプロデューサーたちが気がつかないはずはないから、あれも一種の演出なんでしょう。あのドラマの主演は、役者じゃなくてもいいという企画なのでしょうね。その方が視聴率がとれるなら、髪型なんか、局としては、どうでもいい部分なのでしょうね。
 あのドラマは、いわば、女のいない「タイタニック」だから、今後どれだけの人が見たがるかな。おそらく、ドラマ化案に強力な影響力を与えたのは、「プロジェクトX」の宗谷編と越冬編の2本だろう。おっさん相手には、やはり「プロジェクトX」の二番煎じ案が有効なのだろうが、そのおじさんたちが今後もついてくるドラマになるだろうか。 
 そういえば、長髪の特攻隊員役というのもあったことを、いま思い出した。人は、わすれない。
南極大陸」は、香川の役のモデルになっている西堀栄三郎の『南極越冬記』(岩波新書)を少年時代に読んで、おもしろかったので、「さて、ドラマはどうかな」という好奇心で見たのだが、もう見ない。
 久しぶりに思い出した西堀栄三郎という名前をネット情報で確認すると、晩年は統一教会の熱心な支援者だったと初めて知った。
 市原隼人にちょっと注目しているので、「ランナウェイ」を見た。ドラマで気になったのは、電話の使い方だ。数年間刑務所にいた若者4人が脱走して、それぞれの目的を果たそうとするというストーリーなのだが、盗んだ携帯電話や公衆電話から、友人や家族に電話するシーンが多い。しかし、彼らが電話番号をすべて暗記しているという設定で話が進んでいくのだが、私にはどうにも不自然に見える。携帯電話などほとんどなかった20年前なら、自宅以外から電話するなら、03−35・・・と、電話番号を入力しなければいけない。だから、自宅や何度も電話している親しい友人の番号くらいは、人によって程度の差はあれ、暗記していることも多かった。だから、あのドラマが1980年の設定なら、まあ、わかる。しかし、携帯電話時代に入っている今、刑務所に入る前に、友人や家族に電話するときに、いちいち番号を入力していたはずがない。リストから選んで通話していた者が、脱走してすぐに、他人の電話で通話するという設定が、刑務所から電話しているシーンがでてくるものの、どう考えても不自然だ。役者やスタッフは、変だと思わないのだろうか。私は携帯電話を持ってはいるが、ほとんど使わない。だから、使い方もよく知らないのだ。その私が変だぞと思うが、そのままストーリーが展開しているのは、私が無知で、現実にはなんらおかしい事はないということなんですか?
 私が感じたように、不自然だったとする。脱走した彼らは、電話をしたい人の電話番号を知らない。覚えていない。そこからストーリーが始まったらおもしろいのだ。電話したい人の、電話番号を暗記していないが、どうしても電話したい。どうしたら、電話できるか。それを工夫することで、話に深みが出てくると思うのだがなあ。
それはともかく、日本版「逃亡者」の設定は、5人での逃亡としたことで、現実味はさらになくなった。こういう部分でがっかりしてしまうと、もう見たくなくなるんだよな。おかげで、映画が見られる。本が読める。
 それにしても、ガキや動物がでてくるドラマはいやだなあと思っていたら、「南極大陸」は、子供と犬の両方がでてくる。「ランナウェイ」と「家政婦のミタ」、「秘密諜報員エリカ」、「妖怪人間ベム」、「僕とスターの99日」、そして、子供がごっそり出てくるのが「11人もいる!」。
 ようするに、大橋のぞみ・加藤清史郎→芦田愛菜鈴木福など子役が話題になる現象を利用し、「子役で、話題作りとカネ儲けと高視聴率」を考えた結果でしょうね。
 この文章を書いていて、携帯電話ネタの話を思い出した。数年前、テレビの修理を業者に依頼したのだが、修理を終えて、デッキ類と接続しようとして、うまくできなくなってしまった。その頃は、WOWOWのチューナーもあり、実に複雑な配線だったのだ。そこで、以前にこの配線をした同僚に教えてもらうことにしたようで、「すいません、電話、お借りできますか?」という。若者が、まだ携帯電話を持っていないのかなあといぶかしく思いつつ、ウチの固定電話の子機をさし出したら、ポケットから自分の携帯電話を出して、同僚の電話番号を調べ、ウチの電話にその番号を入れた。仕事で、自分の電話は使いたくなかったんだ。この男の常識は別として、テレビドラマと違って、電話番号を暗記していないのが普通なんだよな。