タイの食文化の話だから、BGMはモーラムにした。CDを取り出すのはめんどうだから、ユーチューブで「モーラム」とカタカナで打ち込むと、うれしいことにいくらでもタイ音楽が出てくる。伝統的モーラム集もあるが、数年ぶりにハニー・シーイサーンを一気に聴くことにする。そのあとは、ターイ・オラタイ。コブシの歌が好きだ。
さて、
「タイ人」という語を、ここでは現在のタイ国の地に住んでいた人、住んでいる人の意味で使う。昔のタイ人はどういう食生活をしていたかという考察だ。
タイ族やほかの民族も、大筋では雲南などから南下してきた。山で生活している人々の主食は陸稲や雑穀類だっただろう。おかずの食材は、その辺のどこにでもある。食べられる山野草はいくらでもあり、川や池の魚貝類、両生類、爬虫類。家の近所にはいくらでも昆虫がいる。森に入れば、より多くの食材が得られるが、それは一種の娯楽だっただろう。アフリカと違って、大型野生生物はゾウ以外いないから、食料を得るための狩猟は娯楽程度でしかないだろう。山に入るのは、キノコやハチミツ採取という目的もあっただろう。
食材は、生で食べられるものは生で、そのままでは食べにくい物は、焚火で直焼きにするか鍋で水煮にしただろう。調味料事情が、日本と大きく違う点がある。タイ東北部や北部には岩塩がある。雨が少ないと、地中から塩が湧き出して、畑が真っ白になるほど土に塩を含んでいる。中部や南部には岩塩はないので、海水から塩を作っている。
日々の料理の準備は、さまざまな香辛料を搗いて、塩を加えたみそのような複合調味料を作ることから始める。ハーブ類にコショー、ニンニク。トウガラシが伝わってきたら、トウガラシもたっぷり入れる。こういう調味料をナム・プリックという。ナムは「水」を指す語として知られているが、液体全般をさすと考えたほうがいい。タレであり汁であり、「○液」という意味でも使う。プリックは、トウガラシのことだから、したがって、ナム・プリックはトウガラシが入った「辛いタレ」か、ペースト状だから「トウガラシみそ」と理解するといい。
植物であれ動物であれ、食材をナム・プリックにつけて食べるというのが、現在に至るまで、タイ人の基本的な食事構成だ。ナム・プリックには焼いた魚の身をほぐして混ぜたり、カニや魚の塩辛を混ぜて作ることもある。使う魚の量が多いと、調味料ではなくそのままおかずになる場合もある。この話は、のちほど詳しく解説する。
各駅停車の鉄道で旅していた時だ。急行列車の追い越しのために、田舎の小さな駅で停車していた。窓の外には大きな水たまりがあった。雨が降ったらその穴に水がたまり、魚や昆虫や水草を育てるシステムになっている。夕暮れ時に、その水たまりに現れたのは、腰布一枚のおっちゃんで、水辺にいくらでも育っているパックブン(空心菜)をふた握りちぎって、去っていった。それが夕餉のおかずの1品になる。
その時、熱帯多雨地域の豊かさをしみじみ感じた。その話を始めると長くなるので、次回に続く。
*7月17日(金) NHKBS 夜9;15 Cool Japanは、世界の「日本のカレー」が特集。