2024-01-01から1年間の記事一覧

2183話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その78

食文化を眺める 18 日本人食文化研究者が、韓国料理の専門家から講義を受けるという構成の本『韓国の食』(黄彗性、石毛直道、平凡社、1988)に、ビビンパの解説がある。法事などで参拝者に出すいわば丼物のようなものが、「ビビムパプ」(黄さんの表記)の…

2182話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その77

食文化を眺める 17 ドキュメント「韓国人の食卓」のほかのDVDを点検したら、おもしろそうなものがいくらでも見つかる。いちいちチェックしているとキリがない。今回は、第186回「スプーンと汁もの」という回をもう一度見ることにしよう。 「韓国人が食事にサ…

2181話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その76

食文化を眺める 16 学術論文をていねいに探せば、韓国人の食事の仕方に関する情報がもっと探せるかもしれないが、ちょっと方向を変えて日本の資料にあたってみる。韓国の食文化資料にはならないかもしれないが、古本屋から取り寄せた『台所用具の近代史』(…

2180話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その75

食文化を眺める15 前回の文章を書き終えたところで、久ぶりに韓国KBSの長寿番組「韓国人の食卓」を見た。農漁村の昼飯がテーマの回で、田畑や船上での食事風景が次々に出てくるのだが、そういう場には当然膳などはないから、料理は草むらや甲板に置き、飯茶…

2179話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その74

食文化を眺める 14 いままでいろいろ書いてきて、やや散漫だったかという反省をもとに、ここでまとめて書いておこう。 まず、石毛直道さんが箸とサジの食事法の歴史を「箸と匙」で簡潔に書いているので、このブログですでに紹介した『食卓の文化誌』も併せて…

2178話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その73

食文化を眺める 13 インド人は金属の大皿を好んで使う。日本人の感覚では大皿というよりも盆と言った方がいいような大きな食器で、そこにご飯やさまざまな料理を盛りつけて、あたかも劇を作るように料理と飯を混ぜて食べていく。韓国人なら、一気に全部混ぜ…

2177話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その72

食文化を眺める 12 「日韓の食具と食器・膳・料理の関わり 食具の機能から見た考察」(金泰虎、甲南大学)という論文がある。私が知りたい分野に言及した論文なのだが、「なんだかなあ」という感想で読み終えた。問題はいくつもある。 箸とサジの食事法の解…

2176話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その71

食文化を眺める 11 韓国の食文化を調べていてがっかりするのは、王族と支配階級の両班(ヤンバン)の食習慣が、「これぞ、韓国の伝統文化」と紹介している人ばかりだということだ。「銀の箸を使うのは、銀はヒ素に反応するから暗殺を防ぐためだ」と解説して…

2175話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その70

食文化を眺める 10 「朝鮮人はどうやって飯を食ってきたのか」というのが、私の主たる関心だ。大韓民国成立以後の食文化史だけを知りたいわけではないので、「朝鮮」としたが、大意はない。時に応じて「韓国」も使う。「どうやって」というのは、農業や水産…

2174話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その69

食文化を眺める 9 韓国民俗村で私が見たかったのは、台所用具や食事用具だ。台所そのものはほかの資料である程度分かっているのだが、例えば300年前の包丁やまな板や鍋類の全貌を見たいのだが、ほとんどわからない。台所にあったはずの各種調味料も、ここの…

2173話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その68

食文化を眺める 8 話は、水原駅の観光案内所から盆唐線ホームに向かうときに戻る。そもそもは昼飯を食べようと地下鉄1号線に乗ったのだが、まだ飯にありつけず空腹を抱えたまま歩いている。パンでも買うか? 場合によればパンでもいい。韓国のパンが食べら…

2172話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その67

食文化を眺める 7 昔の横道話からを、2024年の現在に戻る。 ソウル歴史博物館を出て、昼飯のことを考えていて、仁川のチャジャンミョン博物館に行き、チャジャンミョンを食べようとひらめいた。もちろんソウルでもチャジャンミョンは食べることはできるが、…

2171話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その66

食文化を眺める 6 1987年の金浦空港から始まる話の続きだ。 雑誌編集部から渡された取材スケジュール表によれば、きょうはこれから空港から南下して、利川(イチョン)で陶芸の取材をすることになっている。 車に乗るとすぐ、「途中で昼ご飯を食べて、それか…

2170話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その65

食文化を眺める 5 韓国のタクアンの記憶がたえず増幅されてきたことに理由はある。「韓国人はニンニク臭い。キムチ臭い」という日本人の嘲笑に対して、「日本人はタクアン臭い。羽田に着いたら、アクアンの臭気が充満している」といったか韓国人の反論を何度…

2169話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その64

食文化を眺める 4 2024年のソウル旅行。 鍾路を右折して光化門に至る交差点近くに、かつてソウル高校があった。その敷地に、ソウル遷都六百年を記念してソウル市立歴史博物館ができたのは1994年だった。 かすかな期待を込めて、開館と同時にこの博物館に入っ…

2168話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その63

食文化を眺める 3 国会で「ご飯論法」が話題になったことがある。「ご飯をたべたか?」と聞かれて、パンは食べたが米の飯は食っていないから、「ご飯は食べていない」と論点をずらす論法だとする。 日本語では、「ご飯」というと、「食事」という意味と「米…

2167話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その62

食文化を眺める 2 それでは、そろそろ韓国食文化話を始めようか。 韓国の食文化を語るエッセイはいくらでもあり、そこでは必ずと言っていいほど同じ話が登場する。例えば、韓国人が書くこういう話。 書き手は、「パン、モゴッソヨ?」という韓国語を紹介す…

2166話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その61

食文化を眺める 1 まずは、食べ物に関する私の立場を書いておこう。いわゆる「うまい食べ物」はもちろん好きだが、わざわざ食べに行くことはまずない。日本では外食はほとんどしない。旅先では外食が普通になるが、特定の料理を食べるためにわざわざ出かけ…

2165話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その60

薬屋 『ソウルの練習問題』(関川夏央、情報センター出版局、1984)で、ハングルの構造を説明する例に「약」を取り上げて、こう解説している。 「『yak』と発音する。『ヤク』ではない。『k」』言ったつもりで言わない。強いて言えば『ヤッk』。ソウルを歩い…

2164話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その59

トイレの話 6 前回は、トイレの汲み取り道具と運搬道具の展示を紹介した。その続きで、汲み取り場所がわかる住宅があったので、写真を撮っておいた。この場所の説明は一切ないが、すでに屎尿運搬道具の展示を見ているので、解説などなくても、そこがどういう…

2163話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その58

トイレの話 5 博物館などで見つけた小ネタをいくつか紹介する。 大韓民国歴史博物館で、昔のニュース映像を流していた。一瞬、トイレの画像が流れたような気がしたので、1周待って最初から見たが、アナウンスは当然韓国語だから、ニュースの意味はわからな…

2162話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その57

トイレの話 4 いままで多少きれいな印象を与えるための「トイレ」という語を使ってきたが、今回は「便所」を使いたい。朝鮮の便所史を調べると一筋縄ではいかないことがわかる。 いままで「排泄文化論序章朝鮮編」として長い文章を書いてきた。そこで、その…

2161話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その56

トイレの話 3 世界のトイレを語るとき、かならずテーマにあげられるのが「使用後のトイレットペーパーを流す、流せない」問題だ。世界には「流せない」文化圏が実に多く、かつては韓国もその圏内にいたのだが、ウォッシュレット付きになれば、使用後も紙を入…

2160話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その55

トイレの話 2 ソウル生活史博物館の隣りにある別館は、1974年から2010年まで拘置所だった建物で、留置所が再現されている。ありがたいことにホームページに日本語の拘置監展示室の説明がある。 安全のためだろう、食器がプラスチック製だということはわかる…

2159話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その54

トイレの話 1 このブログの旅行記ではいつもトイレを取り上げているのだが、今回はそんな予定はなかった。ただ、食べることと出すことは、旅をしていれば毎度関わるから、どうしても意識するのだが、今回は食文化のことだけを考える予定だった。このブログ…

2158話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その53

すいとんと美国 2 すいとんの写真を店頭に掲げた食堂に入った。客は誰もいなかった。メニューを見ると、日本語で「エゴマのすいとん」と書いてある。ソウルを歩いていると、予想以上に日本語のメニューがあることに驚く。 エゴマの葉は知っている。食べたこ…

2157話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その52

すいとんと美国 1 この韓国話は、すでに50回を超えて、新書の原稿量に近づいてきたが、今回のソウル旅行の主たる目的である食文化のことはまだ書いてない。食文化をきちんと書くにはもっと勉強が必要で、書き始めれば長くなることはわかっているので、後回…

2156話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その51

長髪とチリチリパーマ 2 話は、バンコクのホテルで休憩しようと立ち寄ったときに戻る。 そのホテルでガイドを取り囲んでいる観光客たちは、ちょっと離れて眺めると、日本人団体客とほとんど区別がつかない。私が服装に詳しければ、「あのブランドは韓国のも…

2155話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その50

長髪とチリチリパーマ 1 ブログの原稿を書くのに疲れると、格安航空券情報サイト「トラベルコ」で、しばし空想旅行を楽しむ。ヨーロッパ便を調べていると、中国の航空会社の便が破格に安いことに気がつく。そのからくりが、先日の朝日新聞でわかった。ロシア…

2154話 ソウル2024あるいは韓国との46年 その49

韓国も日本も、変わった 10 コーヒー2 1979年にソウルで日本語教師をしていた四方田犬彦の『大好きな韓国』に、当時の喫茶店の話が出てくる。長いが、引用したい。 喫茶店はたいてい暗く、熱帯魚を入れた水槽があった。。学生たちは鬱屈した気分を抱き、イ…