2041話 続・経年変化 その7

音楽 7 カンツォーネ

 歌をフランス語ではシャンソン(chanson)、 イタリア語ではカンツォーネ(Canzone)というのだが、日本では限定的な意味でフランスの歌謡曲シャンソンで、1960年~70年代イタリアの歌謡曲カンツォーネと呼んでいる。カンツォーネのCDを探すと、「オー・ソレ・ミオ」や「フニクリ・フニクラ」なども収録されているのだが、日本では1960~70年代のイタリア歌謡曲を「カンツォーネ」と呼んでいる。

 私はフレンチポップよりもカンツォーネの方が好きだった。これは、ポップスよりも歌謡曲の方が好きという趣味のせいなのだろうか。だからといって、「布施明が好きでしょ」と問われると口をつむぐしかない。カンツォーネといえば、次のような歌手の名と歌声に記憶がある。

 ジリオラ・チンクエッティー

 ボビー・ソロ

 ミーナ

 ドメニコ・モドゥーニョ

 ジャンニ・モランディ

 ウィルマ・ゴイクなどの歌が日本でも大ヒットした(この歌が好きだ)。

 私はなぜか非英語圏の音楽が好きだったが(もちろん、アメリカのブラックミュージックは除くが)、特に、カンツォーネに聞き入っていた。センチメンタルな歌が好きで、なかでもミーナの歌が記憶に残っている。「月影のナポリ」や「砂に消えた涙」が沁みた。ただ、彼女の歌は70年代の短い期間に聞いていただけで、その後のことは知らないし、ラジオで聞いていただけだからその姿も知らない。当然、話している姿も歌っている姿も見たことがない。

 そのミーナがNHKの番組に登場したのだ。1964年に「砂に消えた涙」がヒットしてから50年近くたった2011年のことだ。音楽番組「Amazing Voice驚異の歌声」シリーズで、ポルトガルのドゥルセ・ポンテスが紹介されていて驚いたのだが、同じ番組のシリーズで、ミーナが紹介された。動いているミーナを初めて見た。この番組のプロデューサーは私と似た好みのようだ。ハワイのIZ(イズ。ISRAEL KAMAKAWIWO’OLE)もその番組で取り上げていたし。それはそうと、カンツォーネと言えば、伊東ゆかりの魅力がわかるのは、もっと後になってからだ。英語ではない歌に、新鮮さを感じていたのかもしれない。

 2000年代初め、テレビからなつかしのイタリアのポップスが突然流れて来た。大ヒット曲ではないが、私の記憶に残る程度の小ヒット曲だった。芸人ヒロシの自虐ネタのバックに流れているのは、「ガラスの部屋」。歌手名は覚えていなかったので、調べた。ペッピーノ・ガッリャールディと言う名に記憶はないが、この曲ははっきり覚えていた。ウィキペディアによれば、「日本においては1970年に大ヒットしたレイ・ラブロック主演映画『ガラスの部屋』の主題歌」だというのだが、大ヒットしたという記憶はない。

 2017年にイタリアを旅していて、ラジオから流れてくる歌のいくつかに、「ああ、これ、知っている」という少年時代の記憶があった。

 イタリアの南部バーリの朝は雨だった。激しい雨で、道路が冠水している。歩道は歩けるが、交差点を渡るときはつま先立ちで歩くことになる。雨宿りしている人が「雨」と言っているような気がした。ジリオラ・チンクエティーの「雨」が頭に浮かんだ。この歌の原題がLa Pioggiaだということは知らなかったが、あの歌のリフレインで「ラ・ピオージャ」のように聞こえるのを記憶している。イタリア語は聞き取りやすい。帰国して調べたら、あの単語はやはりイタリア語の「雨」だった。その思い出を書いたのが、アジア雑語林1102話だ。ここで書いているようなことを、そこでやや詳しく書いている。

 数年前に初めて見たテレビ番組「小さな村の物語 イタリア」(BS日テレ)のテーマソング、「L'appuntamento」(Ornella Vanoni、1970)を聞いて、すぐさまアルバムを買った(もちろんその前に、「カンツォーネ全集」は買っている)。あの時代のイタリアの歌だ。この番組は村で生活をしている老人を紹介することが多く、その老人たちが若いころ聞いていたに違いない歌が流れている。番組では、毎回家庭での料理と食事風景が出てくるから、食文化の興味も満たしてくれる。

 先日放送したのはローマのちょっと北のラツィオ州の山村が舞台。家庭でピザを作るというのだが、まずトウモロコシの粉をこねた。ポレンタかと思ったが、違う。練ったトウモロコシ粉を厚さ2センチくらい、直径30センチくらいの円盤状にして、暖炉で両面をあぶり焼く。、トマトソースもチーズものせない。ナイフで切って食べるパンのようなものだ。イタリ語で料理名も出たが、確かにpizzaの文字はあった。「ヘェー!」という体験ができる番組だ。調べてみると、、ネットにこの料理が紹介されていた。ピッツァ・エ・・フォイユというらしい。この情報では、「アブルッツォ州の郷土料理」とあるが、番組で紹介しているラツィオ州はその隣の州だ。

 観光地の紹介がない番組、芸能人が出てこない旅番組は心地いい。