2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

451話 バンコクのロイヤルホテルを巡るタイ現代史 後編  ―活字中毒患者のアジア旅行

ここから語り手は、プラヤー・アヌマーンラーチャトンに代わる。彼の話はおもしろいのだが、タイ人の欠点だと思うのだが、時間に無頓着なのだ。だから、その話がいつのことなのか、はっきりしない。漫談を楽しんでいるだけならそれでもいいが、歴史資料とし…

450話 バンコクのホテル・ロイヤルを巡るタイ現代史 前編  ―活字中毒患者のアジア旅行

あれは、もう20年以上前のことになるだろう。バンコクのビルマ大使館でビザの申請をした帰り道、サートン通りを散歩していたら、高い塀で囲まれた要塞のごとき施設の重い扉が私の前で急に開き、なかから高級車が出てきて、すぐさま走り去った。時間にして10…

449話 大野力さんとピブーン  ―活字中毒患者のアジア旅行

手紙類を思い切って整理した。引き出しに入り切らなくなった手紙類を大きな箱に移したのは数年前で、その箱が満杯になってしまったので、これを機会に全部捨ててしまおうと思った。私もすでに手紙から電子メールの時代に入ってしまったから、今後どれだけ時…

448話 若者が海外に出かけるようになったころ  ―活字中毒患者のアジア旅行 

2週間かかって、やっと1冊の本を読んだ。500ページを超える本ではあるが、だから時間がかかったわけではなく、内容が難しかったわけでもない。読んでいるとあまりにおもしろく、関連する本を併読するようになり、読み終えるのに時間がかかったのである。 京…

447話 映像がもつ力   ―活字中毒患者のアジア旅行

先日、内容も確かめないまま、昔の番組を放送する「NHKアーカイブス」を見ていたら、その回は「きょうの料理」(1987年放送)の再放送だった。テーマは秋田のきりたんぽ鍋。スタジオ収録ではなく、秋田の家庭に行って撮影している。 比内鶏を使うのが、正…

446話 鶴見良行を読みながら、頭に浮かんだいくつかのこと  ―活字中毒患者のアジア旅行

すでに単行本で読んだ本が文庫化されると、ちょっと困ることがある。買おうかどうか考えて、困るのである。加筆訂正などほとんどされずに文庫化されたのであれば、もちろん買わない。「大幅に手を入れた」と「あとがき」にある場合でも、1章増えた程度なら…

445話 韓国食文化マンガの米   ―活字中毒患者のアジア旅行

韓国のマンガを翻訳した『食客』(講談社)第1巻の第1話は「母の米」。18年前にアメリカに養子に出された韓国系アメリカ人のジェームズ一等兵は、陸軍に入隊すると韓国勤務を志願した。両親の記憶はまったくないが、別れ際に母が食べさせてくれた米の味を…

444話 マンガ『食客』が教えてくること  ―活字中毒患者のアジア旅行  

『焼肉の文化史』の著者のように、かなり以前から朝鮮半島の食文化を研究してきた人なら、次の2冊を書店で見かけたら、まず買わないだろう。幻冬舎から出た『韓流マンガ 幻のチゲ鍋』と『韓流マンガ 究極のキムチ』という韓国マンガの日本版2冊だ。著者は…

443話 料理書はノンフィクションじゃない  ―活字中毒患者のアジア旅行

東南アジアの食文化について本格的に調べてみようと思った1980年代初め、資料として手に入る本はあまりなかった。シンガポールの本屋を巡って、英語の本を数冊買えばそれで終わりだった。カラー写真が入った高価な本を探したのは、料理の姿と名前を一致させ…

442話 ボクシングのアジアを描け   ―活字中毒患者のアジア旅行

ボクシングの日本フェザー級初代チャンピオンは、同時に、日本のボクシング史上初の王座剥奪処分を受けた男でもある。無敵のボクサーは、傷害事件をおこして永久追放された。その男、フィリピン人のベビー・ゴステロの物語、『拳の漂流』(城島充、講談社)…

441話 以前書いた話の続き   ―活字中毒患者のアジア旅行

以前、このページで、インドネシアで事典を買ったという話を書いた。こんな話だ。 ”Indonesia Heritage”という全10巻のテーマ別事典だ。制作・編集はインドネシアだが、発売はシンガポールという事典で、関心のない1巻を除いて9巻を買った。私は「全巻揃い」…

440話 芸能の生きてきた世界  ―活字中毒患者のアジア旅行

先日、国立演芸場に落語を聞きに行ったのだが、失礼ながら、落語よりもおもしろかったのが売店だった。売店そのものはどこにでもある映画館の売店とそう変わらないのだが、ただ一点違いがある。場所柄なのだが、演芸書を置いてあるコーナーがあった。大書店…

439話  インターネット書店に、買いたい本がない   ―活字中毒患者のアジア旅行

コンピューターを導入する前に、予想していたことがある。「パソコンを使い始めたら、きっとこうなるだろう」という予測のうち、いくつかは予想通りであり、いくつかは予想外だった。 予想通りというのは、原稿は相変わらずワープロ専用機で打ち、短いものな…

438話 冨田先生が残したもの 後編   ―活字中毒患者のアジア旅行

先生からの手紙をもらってすぐに、本代と送料と手数料を合わせて3万円を送ると、すぐに重い段ボール箱が届いた。なかには、最後の1冊である『タイ日辞典』と、大阪外国語大学タイ語科学生用の自作の教科書2冊と、カセットテープが20本入っていた。 「テー…

437話 冨田先生が残したもの 前編   ―活字中毒患者のアジア旅行

冨田先生が亡くなった。 私は先生の教え子ではないが、いままでの功績を考え、大いにお世話になった感謝の意と、たまたま父と同じ1919年の生まれということもあって、敬意を表して「先生」と呼んでいた。私は誰に対しても「先生」とは呼ばない。「さん」づけ…

436話 どうにも、すごいぞ、これは・・・・ ―活字中毒患者のアジア旅行

いや、びっくりした。こんな本が、今でも、現実に存在するんですねえ。『ダッカの55日』(大嶽洋子・大嶽秀夫、中央公論新社)には驚かされた。バングラデシュの本は少ないし、古本屋で半額だったので、内容をよくは確かめずに買った本だ。著者ふたりの名を…

435話 古書と古本屋歩き  ―活字中毒患者のアジア旅行

先日、東南アジア文学の原稿を書いていて気がついたのだが、タイ文学の名作『東北タイの子』も『蝶と花』も、すでに品切れになっていた。この手の本の場合、「品切れ・再版未定」というのは、「絶版」とほとんど同じ意味だ。「この手の本」というのは、増刷…