2066話 続・経年変化 その32

読書 8 ガイドブック 1

 財団法人日本交通公社が運営している旅の図書館には、さすがにガイドブックはある程度はあるようだが、私の興味の対象である日本の若者の海外旅行史資料はほとんどないらしい。蔵書検索の「出版社」で調べてみても、オデッセイはゼロ、白陵社は2冊だけ、そのほか1950~70年代の若者が外国に行こうとした足跡は、この図書館では調べられない。別の言い方をすれば、1980年代以降の「地球の歩き方」や「旅行人」の時代の資料はある程度所蔵しているが、それ以前の若者の海外旅行史の資料はほとんどないのだ。

 海外旅行が自由化される前後の若者、団塊世代とそれ以前の世代が、「青春時代の旅行記」を自費出版する例はいくらでもあり、その家族でもあまり読みたがらないだろう印刷物をこまめに買い集めている。はっきり言って、資料的価値も文学的価値もないのがほとんどだが、1行でも参考になることが書いてあるかもしれないと思って買うのである。

 そういう資料なら、本格的な旅行図書館よりも、コレクターでもない私の方が多く持っているかもしれない。単行本に関して言えば、私よりも多くの資料を揃えているのは、国会図書館だろうと思って調べてみた。

 かつて、KKワールドフォトプレスという出版社が、旅行ガイドを数多く出していた。タイのガイドブックとしては、かなり古い。私の手元にあるのは、『タイの旅』は、初版が1973年の75年の改訂第3版だ。このシリーズはのちに『タイ・ビルマの旅』と書名を変え、78年版と81年版も手元にあり、こちらは国会図書館にもあるが、それより前に出た『タイの旅』はない。国会図書館でも、旅行ガイドブックは全点収蔵ではない。幸運なのは、70年代の旅行ガイド「パントラベルガイド」が17冊あることだ。

 旅行ガイドブックは消耗品だから、神保町の由緒ある古本屋には置いてない。あるのは私鉄沿線の商店街にある古本屋で、たいてい二束三文の値段がついていた。5年前の「るるぶガイド」じゃ、誰も買わない。使い倒したガイドブックに価値はないと思われていたから、店頭でたたき売りされていた。ネット書店ができたころ(まだアマゾンはなかった)、ていねいに調べれば昔のガイドブックや旅行記がやはり二束三文で売られていて、こまめに買い集めたものだ。

 ところが、そう、10年くらい前からだろうか、古いガイドブックに骨董的価値をつけようとしているのか、とんでもない値段がつくようになった。かつて300円の値段がついていたガイドブックに2万0000円の値がついている。売値をいくらにつけようが出品者の自由だが、いったい誰が買うのか。

 例えば、こうだ。『地球の歩き方』の古い版の値段をアマゾンで調べてると、どんでもないことになっているのがわかる。書名はアマゾンの表記のママ。

地球の歩き方 インド・ネパール』 1984~1985年版・・・3万4900円(デジタル版のことはのちの回で書く)。

地球の歩き方 インド』 90~91年版・・・20万0874円

地球の歩き方 ヨーロッパ』 1985~1986年版・・・3万0080

地球の歩き方 中国』 87~88年版・・・2万99979円

地球の歩き方 アメリ』 1980(画像は84~85)・・・8万7593円

 誰かが仕掛けようとしているニオイがするので出品者を調べると、多くは「もったいない本舗」だ。私のよく利用するネット古書店で、いかがわしさはない。ということは、この古書店は旅行ガイドブックの価値を高めようと、高価格を設定したのだろう。美術品などにはよくあることだ。さて、問題は、誰が買うかだ。

上に書いた売値は原稿執筆時のものだから日々変化している。原稿を書いて1週間後に『インド』を調べ直したら、21万円になっていた。

 ロンリー・プラネットはどうか? ついでにちょっと調べてみた。「日本」編のスペイン語Lonely Planet Japón”を調べたら、2014年版、いくらだと思う? 「36万円だよ!!!!」と、びっくりしてこの文章を書いて10日後、改めて調べたら9608円だ。その値段で売れたとは思えないから、打ち間違いだったのか。