349話 LED電球の寿命と将来

 新聞に入っていたホームセンターの折り込み広告に、「LED電球 驚異の寿命 20年間交換不要!!」というキャッチコピーがあった。ある資料では、白熱電球の寿命は、1000時間、電球型蛍光灯は6000時間なのに対して、LED電球は4万時間の寿命だという。1日5.4時間使用するという計算で、LEDなら20年間使えるということらしい。
科学の威力を示すなら、それは確かにすばらしいことなのだろうが、この折り込み広告を見たときにちょっと心に感じるものがあった。
「例え今日、LED電球を買っても、自分がその電球を交換することは多分ないだろうな」
 もしも40代以下ならそんなことは考えないだろうが、60歳近くなると、20年先なんて遠い未来が自分の未来とはなかなか考えられないのだ。
この話を、蔵前さんにメールしたら、「うちでも、そんな話が出ましたよ」という返事だった。高齢者が多い旅行人関連サイトの読者も、おそらくは同じような感想ではないだろうか。
 高齢になったから、未来のことなど考えられないと書いたが、考えてみれば若いころも同じだったような気がする。まだ20代のころ、長い旅から帰って来ると、国民健康保険国民年金の支払い請求が来ていた。健康保険には、すぐに入ろうと思った。以前、旅から帰ったら、扁桃腺炎になり、体温が40度にもなった。幼児期から20代の半ばになるころまで、扁桃腺炎が持病のようになっていて、年に1,2回は高熱を出していた。その持病が、帰国してすぐに出たのだ。
 近所のクリニックに行って、いつものようにペニシリン注射を受けた。だから、病気の心配はしていなかったのだが、支払いはショックだった。健康保険がないので、1万円以上の請求だった。旅先で、少しでも安い宿を探し、5円、10円を値切っていたというのに、帰国早々の1万円は痛い。1ドルが250円時代の、1万円ですよ。
 以前にそういう経験をしているので、今回はすぐに国民健康保険に加入しようと思ったのだ。それに、そのころから父の体調が良くなかったので、健康保険でも父を私の扶養家族にして、父も健康保険を使えるようにする必要があった。
 国民健康保険加入手続きのために、市役所に行った。「健康保険には加入しますが、国民年金には入りません」といった。年金を受け取ることになる40年先のことなど、とうてい考えられなかったのだ。今現在のことは考えていたが、将来のことはまったく考えてなかった。市役所の職員は、こう言った。
「健康保険と年金はセットになっているので、健康保険だけ加入することはできません」
 今は、それが誤りだとわかるのだが、そのときは「健康保険はぜひとも必要だ」という思いが強く、しかたなく国民年金にも加入した。
 あれから、いつも間にか、35年もたった。あの頃も、未来なんて考えてなかった。今も、同じだ。