1800話 旅とクレジットカードと医者と

 

 自称Amazonからの怪しいメールはほぼなくなったが、あやしげな薬を売りたいらしい英語のメールはひっきりなしに来ている。数日前から来ているのは、自称みずほ銀行からの「外貨預金の再登録のお願い」だ。私がみづほ銀行の口座を持っているという情報が洩れているようだが、外貨預金もインターネットバンキングも、もちろん関わっていない。別の怪しいメールは、「おばあちゃんがおこづかいをあげます。ここをクリックすると500円」のような、ひらがなが多いメールが来たが、スマホを持っている小中学生向けか? こういう不愉快なメールを防ぐもっとも有効な対策法は、メールアドレスを変える事だろうが、面倒だなあ。

 さて。

 きょうは、3か月ごとの定期検診に行った。

5年ほど前から私の担当になった若き医者は、「そろそろ旅に出るころですか」と世間話を振ってきた。定期的に病院通いをしなければいけない身なので、旅のスケジュールと検診日の調整や、旅行中の健康管理などの相談をしているので、私がよく旅をすることは、出会った最初から伝えている。この医者も、詳しいことは知らないがデンマークでしばらく生活していた経験があるという。

 「これからヨーロッパは寒くなるし、熱帯の旅行も気分的に重いし、円安だし、以前のような旅は来年以降ですかね」

 「円安ねえ。医者の世界も円安はけっこうつらいんですよ。薬品とかコンピューターを含めた医療機器とか、じわじわと・・・」などと言いながら、「今回は、血糖値がちょっと高いですね」とじわりと注意される。

 「旅行中、突然倒れるなんていう心配はしてもしょうがないし・・・」

 「ええ、絶対に大丈夫なんてことはないですからね」

 「だから、旅行保険はちゃんと入っておこうと思うんですが、年齢が高くなるにつれ保険料が高くなるのが問題で、友達は『クレジットカードのゴールドカードを持っていれば、わざわざ旅行保険なんて入らなくてもいいよ』なんて、無茶なことを言うんですよ」

 そういう無茶なことを言ったのは、天下のクラマエ師こと蔵前仁一さんだ。「ゴールドカードを持っていれば、病気もケガも物損にも有効だよ。前川さんも持てばいいのに」などという。ゴールドカードは、「欲しい」と思えば、持てるものじゃない。田中真知さんも、旅行保険はクレジットカードのサービスを利用しているらしい。

 「私には無理ですが、医者なら簡単でしょ」と、若き医師にいってみた。

 「いえいえ、とんでもない。医者といっても貧乏な医者もいます。救急救命医だと、アルバイトをする時間はありません。一番忙しい医者が一番貧乏なんです」

 「開業医なら裕福だから・・・」

 「というわけでもないんです。多額の借金を抱えている人もいますし、うまくやっている人は稼いでいますが、うまくやれない人ややらない人もいます」

 テレビ番組を思い出した。「歯科医院はコンビニよりも多い」とよく言われる。考えてみれば、ウチの半径2キロ以内のところに、コンビニは6軒、歯科医院は12軒ある。テレビ番組の歯科医は、自分の歯科医院の診療後、夜間はアルバイトで他の医院で働いている。こうしないと家賃や医療器具の支払いができないのだという。

 「私のところにも、クレジットカードのDMはよく来ますよ」と若き医師はいう。「でも、年収は低いし持ち家もないので、審査に落ちるでしょうし、審査が通っても、バカ高い年会費はとても払えませんよ」。アメックス・ゴールドカードの年会費は3万1900円。プラチナカードは14万3000円。

 清貧の医者であった叔父の紹介で母が通い始めたこの病院なので、医師用駐車場に高級車はない。