銀行待合室にいる世話係りは、定年退職した元行員なのだろう。そのひとりに声をかけ、キャッシュカード再発行の書類をもらった。新しい暗証番号を書く欄がある。今年は「2018」が一番多いのだろうか、それとも自分以外の誰かの誕生日だろうかなどと考えた。アメリカでは、コンピューターなどで使うパスワードでもっとも多いのは、”password”だそうで、記入欄にpasswordと書いてあるから、忘れることもなければ、綴りを間違えることもない。
キャッシュカードの4桁数字はそういうわけにはいかないので、今度は根拠のある番号にした。これで忘れるようでは、住所氏名に電話番号を刻印したペンダントに暗証番号も加えて、首からつるしておくしかない。
番号札を手にして順番を待っていると、「渉外係り」という名刺を持った人がやって来た。投資や国債の「ご案内」だという。国債100万円を買うと1000円ほどの収入になるとかなんとか言っているが、もとより関心がないので上の空。銀行内だから行員を追い出すわけにもいかず、ぎりぎりまで耐える。
順番が来た。再発行申請書類を出す。身分証明書は、運転免許証がないので、健康保険証を出す。
「顔写真が載っている証明書はお持ちですか?」というので、そういうこともあろうかとパスポートも出す。
「キャッシュカードの再発行には1080円の手数料がかかりますが、クレジット機能もついているカードに変更すると、手数料はかかりません」と資料を出した。visaやMasterはすでに持っているが、Amexという文字が見えた。旅行保険付きで、しかも、年会費無料。
「はい、みずほのキャッシュカードにアメックスもつけるなら、年会費は無料です。カード再発行手数料もかかりません」
これは「みずほマイレージクラブカードセゾン アメリカン・エキスプレス・カード・ベーシック」とい長い名前のカードで、年会費無料なのに、死亡・障害で1000万円、傷害治療100万円などとなっている。アメックスカードはいちばん安い年会費で12000円。ANAと提携しているカードで6000円だ。それが無料なら、得だ。「障害100万円」となっているが、「疾病」とはなっていないあたりがポイントなんだろう。
この日、帰宅してすぐに、天下のクラマエ師こと蔵前さんに、「みずほでは、アメックス付きキャッシュカードだと年会費無料だよ」とメールを送ったら、「へー、無料か。でも、審査があるんだけどね、フフフ」と返信があった。そうなんだ。キャッシュカードにアメックスの機能も付くシステムがあるからと言って、この前川が審査に通る保証などまったくないのだ。
過去に蔵前さんとはクレジットカードを巡る話は何度かしていて、最初は私がパソコンを導入しようかどうか考えていた時で、プロバイダー料金の支払いをクレジットカードでやるのだが、貧乏ライターは審査に通らないとグチを言った。知り合いのライターは妹のカードを借りていた。別のライターは、銀行員の「大丈夫です、お任せください」というしつこいセールスに負けて、クレジットカードの申請書を出したら、ひと月後に「今回は残念ながら・・・」という返事が来た。大学講師もしている友人のライターは、正業についている妻のカードを借りていた。「学生でも持っているのになあ・・・」と寂しげであった。香港物で知られるかの山口文憲氏は、クレジット機能付きの西友のカードを申請して拒絶されたという体験談を書いていた。私はクレジットカード付きのイトーヨーカドー・ポイントカードを申請しようか考えていた時なので、ショックだった。そういう時代だったのだ。
クレジットカードについて、ちょっと前にも蔵前さんと話をした。旅行保険のことだった。年齢が高くなると、旅行保険料も高くなるというようなことを私が言ったら、「旅行保険って、入っていないんだ。クレジットカードに旅行保険がついているから」
「カードの保険じゃ、大したことないでしょ」
「普通のカードならそうだけで、ゴールドカードだとちゃんとしているよ。前川さんも持てばいいじゃない、ゴールド」
スーパーのポイントカードのように簡単に言うが、貧乏ライターが「じゃあ、入ろうかな」と入れるわけはない。会社社長といっしょにしてはいけない。万が一持てたとしても、高額の年会費を払う気がない。ネット情報では、アメックス・ゴールドカードの審査はそれほど難しくないというが、年会費は29000円+税である。旅行保険料のほうが安い。
話が横道にそれたので、元に戻す。
みずほのキャッシュカードにアメックスカードがついているのは魅力だなあと思いつつ、行員の説明を聞いていた。「手続きにはひと月ほどかかりますが、いかがでしょう・・・」と行員は言うが、この機会に、アメックスカードを申請してみようか。
「ところで、このカードはなんですか?」
パスポートといっしょに提出したキャッシュカードを手にして、行員が聞いた。
「以前使っていたカードで、変更になっても捨てずに持っていたので、再発行の資料に使えるかもしれないと思って持ってきたんですが・・・・」
行員はそのカードを左手に持ち、パソコンで調べている。
「このカードは、現行のものです。使えるはずですが、試してみましたか?」
「いえ、・・・、ええ? 使えるカードなんですか?」
「紛失したとおしゃっているカードは、もしかして、これではないかと・・・」
あーーーーーーーー、わかった。思い出したぞ!!!
新座駅のコンビニで現金を引き出した後、キャッシュカードを毎日持ち歩いている必要はないぞと思って、そのカードを貴重品袋に入れて、引き出しにしまい込んだのだ。それを、すっかり忘れていた。キャッシュカードを持った20代から40年以上、日本にいる限りカードは財布に入れていたので、ATM機の前で財布にカードがないと気がついて、呆然自失。動転、狼狽、動揺。思いがけない事態におののいて、理性を失い、慌てふためき、どこかでカードを無くしたに違いないと思い込んでしまったのだ。だから、引き出しの中にあったカードを、「過去の使えないカードだ」と思い込んでいたのだ。
「過去の使えないカード」だと思っていたキャッシュカードで現金を下ろした。これが秋の旅行資金だ。私はクレジットカードでの支払いやキャッシングというのは嫌いだ。現金のほうが使いやすいという古いタイプの日本人だ。
というわけで、この秋も世界のどこかで過ごすので、このブログはしばらく休みます。夜の時間をもてあそんでいる方は、バックナンバーでもお読みください、秋の旅の話は、冬になったら、このブログに書きましょう。皆さま、お元気で。
Vamos ,amigos!