261話 大人になるということ



 昨今の若者は、酒を飲まなくなったという。あるいは、自動車に興味がなくなったという。 プロ野球ファンも減っているという。社員旅行を嫌い、社内の新年会や忘年会は、できるなら出席したくないという。そういうニュースを聞くと、私は時代を先 取りしているのだとよくわかる。
 私は酒を飲まない。宴会は嫌いだ。団体旅行も嫌いだ。自動車にも興味がない、運転免許証も持っていない。野球のルールさえ知らない。マージャンを知らないし、最後にパチンコ店に入ってから、もう30年以上たっている。その前だって、ほんの数回行ったことがあるだけだ。
 というわけで、20歳になる前に、私は「大人らしさ」を拒否した。正確にいえば、意識的に拒否した部分と、酒のように体質的に合わないから飲まないとい う部分もある。私と、今の若者の性向の相違点は、読書、音楽、旅行くらいだろうか。若者が愛好していて、私が嫌っているのは、携帯電話、ゲーム、サッカー と、アニメと、あと何だろう。
 そんなことを考え始めたのは、「裕次郎と若大将」の後継者は木村拓哉だと感じたからだ。裕次郎も加山も、いわゆる新劇的演技からは縁遠く、日常会話のよ うな台詞回しで、だから言葉がリアルだ。裕次郎の「イカス」に対応して、木村の「ヤッベ」というような口語もイメージが重なる。
 青春時代を終えた裕次郎と若大将は、立派な大人へと変身し、もはやチンピラではなくなった。木村はどうなるかと思っていたら、保守本流カローラのCMをやり、国会議員にもなり(若大将は、なんと大統領になっているが)、ちゃんとした大人に変身しつつある。
 この「大人」と「非大人」の対立を、海外旅行に当てはめてみたくなった。海外旅行が夢物語だった時代は、当然、すべての旅行目的地は大人の世界だったの だが、その後、主に「大人になりたくない若者たち」の注目を集めてきたのが、インドだ。1980年代の雑誌「ブルータス」がカリフォルニアを持ち上げた が、日本人の間で若者だけが旅行するというわけではなかった。新婚客も家族連れもいる。
 インドの場合、一部の仏教関係者や世界遺産愛好者などは訪問するにしても、旅行者の多くは若者のような気がする。これがネパールだと、山歩き愛好者の団 体旅行などもあって、けっして若者中心というわけではない。ある国の、ダイビングスポットなら、若者が中心ということはある。しかし、ダイビング愛好者 は、大人と大人予備軍だろうと思う。「立派な大人」になることを拒否しているわけではないだろう。
 裕次郎と若大将と木村拓哉からの連想で、旅についてあれこれ、うだうだと考えるというのも、楽しいものだ。