267話 「食客」から見えてきたもの その2


 テレビドラマ版「食客」を見ていて、日本ではテレビドラマでは絶対に扱えないテーマが登 場している。食肉処理人の話だ。その職業ゆえに、娘が結婚できなかったという差別される側のエピソードも入ると同時に、肉を切り分ける技術のすばらしさも 称えている。日本のテレビでは、多分、韓国版のまま放送されたはずだ。元のマンガに、このエピソードがあるのかどうかわからないが、もしドラマ通りのス トーリーがマンガにもあったとして、では原作通りにそのまま翻訳するかどうかとなると、大いに疑問だ。マンガは差別を助長するものではもちろんないが、で も「触らぬ神にたたり無し」だから、そのエピソードはカットするかもしれない。
 韓国の食事作法のひとつとして、器を持ち上げないことや、飯は箸ではなくサジですくって食べるといった話が、ガイドブックや食文化紹介本などに必ず登場するが、このことについて、私はかねてから気になっている。
 椀や皿を盛り上げるようなことはせず、置いたまま食べる。汁と飯はサジで食べ、それ以外のおかずは箸を使うというのは、確かに正しいマナーなのだろう が、現実の食事法ではない。そのことに最初に気がついたのは韓国の食堂だったが、以後、韓国のドラマや映画で食事風景が出てくると、注目する習慣がついて いる。
 すると、日本人のように飯椀を左手に持って食べている光景はいくらでもでてくるのだ。「食客」のドラマ版でははっきりした記憶はないが、マンガ版なら、第2巻の31ページに、飯椀を左手で持ち上げ、箸で飯を食べている韓国人が描かれている。
 これがマナーと現実の違いで、日本でも「正しい箸の持ち方」と、現実の箸の持ち方は確実に違う。マナー本に書いてある「正しい持ち方」をしていない日本 人は、すでに半分くらいいるかもしれない。日本のテレビでタレントたちが食べるシーンがあると、つい箸の持ち方に注目してしまう。最悪の例は、笑福亭鶴瓶中尾彬だ。
 今、ドラマ版「食客」のシーンを思い出していて、創作料理の姿が目に浮かんだ。西洋人にも受け入れられる韓国料理を作り出すというエピソードに登場して いた料理は、日本料理の盛り付け方を取り入れたものだ。料理そのもの詳しい解説があったかどうかあまり記憶にないが、料理の色合いからしても、ニンニクや トウガラシを使っていないようだ。しかも生魚を多用すれば、ますます日本料理に近くなる。そこが、韓国人のジレンマなのだろう。
 食文化とは違う話をひとつ。私は、韓国映画はそこそこ見ているが、テレビドラマはほとんど見ていない。だから、わずかな知識でいうのだが、ドラマ版「食 客」を見ていて気がついたのは、片親と子ども一人という例が多くあることだ。このドラマでも登場する人々のほとんどは、両親のどちらか、あるいは両方がす でに死んでいる。そこで、いままで見た韓国映画を思い浮かべると、「八月のクリスマス」も「おばあちゃんの家」も、「ピアノを弾く大統領」も、あれもこれ もと、その例が思い浮かぶ。こういう「家庭の事情」を取り入れて不幸を演出するのが、韓国流なのだろうか。