4話 タイでロケした日本映画


  前回の「太陽への脱出」に引き続いて、タイでロケした日本映画の話をしよう。ここ10年の映画なら「熱帯楽園倶楽部」などいくつかあるが、どれもあまりお もしろくない。古い映画なら、古い時代のタイの様子がわかり、それだけでも利用価値がある。というわけで、日本映画黄金時代の作品から、いくつか紹介して みよう。
 『写真集 東南アジア』(丸山静雄、修道社、1961年)を読んでいたら、侍姿の長谷川一夫がタイの寺院で撮影している写真があって、「これはなん だ!」とびっくりして調べたら、こんな映画があるとわかった。「王者の剣・山田長政」(大映、59年、長谷川一夫市川雷蔵)だ。日本人がタイ人を演じて いる不自然さは、アメリカなら当たり前のこと。ワット・プラケーオらしき寺院でのチャンバラが笑える。
 「バンコックの夜」(東宝、66年、加山堆三)は、コロンボ計画(南・東南アジアの開発を目的とする経済協力機構)から派遣されて、熱帯病治療のために タイにやってきた青年医師の物語。65年公開の「赤ひげ」の東南アジア版という計算でしょう。バンコクでロケしているが、シーンの長さでは台湾のほうが重 要らしい。まあ、どうということもない。
 「波濤を越える渡り鳥」(日活、61年、小林旭)は、例の無国籍アクション作品の一作だが、これはタイをはっきりと舞台にしている。なにしろ、小林はタ イ育ちで、戦後日本に引き上げたという設定になっているから、けっこううまいタイ語をしゃべる。ところが、タイ人のタイ語が変なのだ。日本のスタジオで撮 影したものは、ことばの訛りから察するとどうやらカンボジア人留学生がタイ人役をやったのではないかと思う。「太陽への脱出」に出てくるタイ人警官もまた ひどいタイ語で、この場合は英語ができるということでフィリピン人がタイ人の役をやったのだろうと推測している。このタイ人警官が裕次郎ドンムアン空港 でからむシーンは、「カサブランカ」だろうかなどと考えながら映画をみるのも、音楽でいう「カバー」や「パクリ」が多いこの時代の映画ならではの楽しみで ある。ちなみに、「カサブランカ」の全編カバーは「夜寒よ今夜も有難う」(日活、67年)である。
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