453話 ほんのちょっぴりのデジタル旅行

 
 私は機械が嫌いだから、パソコンやスマートフォンを持ち歩いての旅はもちろんしていないが、今回の旅は日本出発までが、ちょっぴりデジタルでした。「そんなの、もう世間の常識じゃないか」と思う人も多いでしょうが、まだ私のような人もいるかと思い、その話を書いてみよう。
 旅に出ることを決めて、航空券情報を集めた。とりあえずタイに行くのだが、できればどこかに寄り道したい、あるいは、バンコクで乗り換えてどこかに行きたいなどと考えていたので、航空券情報の収集も手間がかかった。なにしろ、どこに行くのか決めてないのだから。
 いろいろ調べてみると、日本・タイの区間でどこかに途中降機(電車なら途中下車です。ストップオーバーとも言います)するというのは、旅行期間などが制限される航空券では利用しにくく、結局、直行便を利用することに決めた。乗り継ぎ便である安い航空券も、途中降機するとなるとえらく高い料金を加算されたりする場合がある。わかりやすく例をあげれば、ベトナムハノイで乗り継ぐ便なのに、ハノイで降りてしばらく旅したいと考えると、高額の加算になったりするという意味です。
 航空券情報を集めていてもどかしかったのは、燃費サーチャージなどの諸経費だ。ある旅行代理店のサイトに「航空運賃 2万9800円」とあっても、実際にいくら支払うのかわからないのだ。諸経費を含めた全額を表示しているのはHISくらいで、これは高く評価したい。ほかの旅行社のものは、予約の画面まで進まないと、実際に支払額がわからない仕組みになっていたりして、そういう小細工がわずらわしい。
 いらいらしつつ安い航空券を探していて、ふと航空会社のサイトを見てみようと思った。以前は、航空会社の正規割引便がいちばん安かったのを思い出したからだ。今回探したら、タイ航空のHPで売っている航空券がいちばん安いことがわかった。旅行社は、この価格に上乗せして販売するのだから、業者なみの価格で購入できるわけだ。
 しかし、当然問題もある。ネットでのお買い物なのだ。アマゾンなりYahooなり、ネットでの買い物はしたことはあるが、英語の画面での買い物は初めてで、のちにわかるのだが、この英語の画面はタイ語画面の自動翻訳になっているようで、英語がでたらめで意味不明な箇所があった。ほかの通販の画面を見たりして、問題の個所の意味を探った。1時間かかって問題の欄は、クレジットカードの裏に書いてある数字の下3桁のことだとやっとわかった。
 そういう深夜の格闘をして、航空会社から送られてきたメールをコピーして完了らしいのだが、本当に完了なのかどうか自信はない。とにかく、すべてに自信がないのだ。自信がないが、とにかくネット上での予約・購入はネット・デジタル音痴の私でもなんとかできるのかもしれないという危険な自信がつき、翌日はバンコクのホテルを予約した。到着が深夜になるので、それから宿探しはご免だから、ホテルに直接メールを送って予約した。このホテルは、ホテル予約代行業者を使わないから、直接の予約だ。これも、ホテルからのメールをコピーして完了。
 バンコクからどこに行こうか考えた。陸路でカンボジア、そしてベトナムか。ラオス、そしてベトナムか。雲南かインドか、ジャワかなどといろいろ考えて、結局マレーシアにした。食い物がいちばんうまそうだったからだ。それで航空券情報を探したら、Air Asiaがいちばん安いということがわかり、そんなことなら成田―クアラルンプールーバンコクの往復航空券にすればよかったと思っても、もう遅い。いきあたりばったりの旅は高くつくのだ。安く旅することだけを考えるなら、団体旅行にすればいい。旅しなければ、もっと安い。
 というわけで、航空会社とホテルからのメールのコピーを持って成田空港に向かったのだが、本当に、これで飛行機に乗れるのかと不安だった。メールのコピーとパスポートと、航空券購入に使ったクレジットカードを提示して、チェックインした。本来ならここで受け取るボーディングカードが、今はコンビニのレシートみたいな紙一枚で、「ほんとに、これで、大丈夫?」と思った。大丈夫だったのだが、みなさん、そう思いませんか。
まあ、これで、旅ができたんだけで、味気ないねえ。もし、プリンターが不調だったら、予約番号などのメモでもよかったのか?
 デジタル・バックパッカーの行動というのも、ちょっと見たが、もはやそういう名称はおかしいようだ。バックパッカーのほとんどが、デジタル者なのだ。安いゲストハウスに行っても「予約してます?」なんて聞かれるくらいで、おいおい高級レストランかいと言いたくなるが、旅行者にしても宿のオーナーにしても予約があったほうが安心できる。というわけで、翌日からの行動が決まったら、スマートフォンやノートパソコンで予約を入れる。ある宿は、到着したら、ホテルの近くに住んでいるオーナーに電話するシステムになっている。宿にスタッフはいないのだ。客は宿の玄関キーと部屋のカギを渡される。カードキーだから、料金を払ってないと、開けられないわけだ。「旅行者は電話を持っている」を前提にしているので、私のような者は使えない。
 パソコンを持っていなくても、評判のいい宿ならパソコンが自由に使えるサービスがあったりする。電話も、西洋人の利用ならインターネット電話が多くなっている
 そんなわけで、旅行者密集地からネットカフェがほとんど消えたように思う。バンコクで友人に聞いたら、ネットカフェは郊外の住宅地には残っていて、子供たちがゲームをしているのだという。ただ、日本のネットカフェは何をしに行くのか、わたしにはわからないが、まあ、それは別の話。