1148話 桜3月大阪散歩2018 第2回

 大阪安宿事情


 私の経験と知識を駆使して考えると、大阪は「世界でいちばんおもしろい街」に認定された。「ただし、東京を除く」としておく。東京に関する知識や経験と比べたら、ほかの街と比べようがないから、この但し書きをつけただけで、東京が大阪よりも確実におもしろいという意味ではない。
 ニューヨークなりサンフランシスコなり、魅力的な街は他にいくらでもあるが、資料を読みつつ街の深部を探るという作業ができる地は、日本語の資料がいくらでもある大阪以外は考えられない。私にとっての「おもしろい街」は、散歩をしていて楽しいだけでなく、本や新聞や雑誌などのほか、看板や張り紙まで解読できて、食堂や電車やバスの車内や路上の世間話も盗み聞きでいるような街となれば、日本の街で、東京以外で足と頭脳の散歩を楽しめる街は大阪しかない。私は精一杯、足と目玉と脳みその散歩を楽しみたいのだ。だから、私は風光明媚・名所旧跡・神社仏閣大観光地と相性が悪い。
 旅行先を大阪に決めた理由はほかにもある。成田・関空間の飛行機を使えば、新幹線代金よりもかなり安く行ける。そして、大阪の宿泊費が安いことだ。ある程度の日数の滞在となれば、宿泊料金は重要だ。前回は西成区新今宮に泊まったから、今回はそれ以外の地区に泊まろうと、インターネットを駆使して安宿探しをやったのだが、見つかる安宿はいずれも西成区だ。おもしろそうで、今まで滞在したことがない地区で過ごすというプランは諦めて、経済的な理由でまたしても西成に宿泊することにした。今回は、前回泊った宿よりやや高価なところにした。
 西成の旧称釜ヶ崎地区(役所は「あいりん地区」と呼ばせようとしているが、役人以外誰がそう呼んでいるのだろうか)は、日雇い労働者相手の簡易宿泊所が建ち並ぶ地域だが、少子高齢化で労働者が減り、多少の改装などをして旅行者を相手にする安宿にしたところ客がだんだん増えてきた。今回泊まった宿は、私の観察では、多分、宿泊者の半分くらいは外国人だ。外国人客は、西洋人や中国人や韓国人やタイ人などだ。隣りの宿には西洋人が多い。SNSで、「ここはいいぞ!」と誰かが強く推奨したら、その宿に特定の国籍の人が集まるということがあるだろう。ただし、バンコクのカオサンのように外国人租界のようには、まだなってはいない。
 この地域の宿は、ドミトリーは少なく、基本的に個室がほとんどで、風呂とトイレは共用。宿泊料金は、和室と洋室で違い、最低クラスの料金は、和室が1000円台前半、洋室は1000円台後半だ。だが、これは平日料金で、週末には一気に高くなり、2000円台なかばにもなる。3畳とは言え、テレビ、冷蔵庫、エアコンがついて、平均2000円としても、十数ユーロだ。西ヨーロッパの大都市で、こんなに安い宿があるだろうか。アジアの宿にしても、例えばバンコクの中心地で2000円(600バーツ強)の宿は、そう簡単には見つからない。台北なら、この金額でゲストハウスのドミトリーに泊まれるかどうか。
 昨年見なかった光景は、中国人旅行者や、マレーシアかインドネシアイスラム教徒たちを乗せた大型バスが、路上で停まっていたことだ。個人旅行者だけでなく団体旅行者も西成に姿を見せたというわけだ。関空と難波を結ぶ路線に新今宮駅があるから、ここは空港へのアクセスがすばらしくいい。この上のクラスの宿だと、3倍ほどの料金の東横インが大阪各地にあるのだが、できる限り安くという要求なら、西成に来るしかない。日雇い労働者の街西成の宿は、外国人も個人や団体客がいて、英語のインターネット画面で予約もできるという時代になっているのである。私が泊った宿の受付けは、日本語が堪能な西洋人スタッフだった。そして、私がチェックインをしている間に、「今晩、部屋ある?」と聞いている客がいたが、「申し訳ありません。満室です」と断っている。私がこの宿を選んだ理由のひとつは、2週間ほど連続して滞在できる宿はほかに見つからなかったからでもある。スペインでもさんざん苦労したように、週末の宿泊は予約なしでは難しくなっている。釜ヶ崎や東京の山谷の安宿が、ネット予約をしないと簡単には泊まれない時代になったのである。
 今回泊まることにしたこの宿、平日1800円、週末2400円(いずれも税別)。前回泊ったホテルと違い、歯ブラシ、スリッパ、寝間着、バスタオル&フェースタオルがついている。ホールには台所があり、洗濯機(有料)もある。ここを拠点に大阪散歩を始める。心がうきうきしている。


 右上にエアコンがある。

 狭いが、寝るには充分。シーツ交換や部屋の掃除は申請制。ひとり旅の私には、シングルルームが多いのがありがたい。最近はレディース階がある宿もある。


 天王寺付近にも多い東横ホテル。OLたちが泊る宿としては、ここが最安値に近いだろう。10時チェックアウトで、チェックインタイムが16時というのが、安さの秘密かな。


 イスラム教徒の団体客も、ときどき見かける。そういう意味でも、大阪は国際的な大都市になりつつある。アジア人に大阪は大人気です。