トイレの話 6
前回は、トイレの汲み取り道具と運搬道具の展示を紹介した。その続きで、汲み取り場所がわかる住宅があったので、写真を撮っておいた。この場所の説明は一切ないが、すでに屎尿運搬道具の展示を見ているので、解説などなくても、そこがどういう場所かすぐにわかった。
『ソウル原体験』(黒田勝弘、徳間文庫、1988)に、1979年の新聞記事が紹介されている。小学校の汲み取り式トイレが暗くて臭いと、小学生がトイレに行くのを拒否していて問題となっているという記事だ。1991年のドラマ「愛って何だ」に、婚家のトイレが汲み取り式だから、嫁は用を足しに実家に帰るというシーンがあると、『ドラマで読む韓国』(金光英実、NHK出版新書、2024)で紹介している。古い戸建て住宅とアパートが混在する時代だ。
糞尿の運搬用具はわかっているから、壁際のここが、汲み取り口だということがわかる。ここは庭にある便所小屋ではなく、屋敷の隅だということがわかる。2162話で紹介したのは納屋の一部に作った便所だった。
民俗村の話は別の機会にたっぷり書くが、ここでは国立中央博物館で唯一撮影した展示品の話をする。
国立中央博物館は、「まあ、おもしろくはないだろうな」という予感がしていて行かなかったのだが、もしかすると販売している資料に買いたくなるものがあるかもしれないと思って、滞在最終日近くになって出かけた。主たる目的は資料収集だったが、はっきり言ってロクな資料はない。博物館売店は、安っぽい土産物屋だ。展示品は私の好みでいうと、やはりだめ。スカスカ。トイレ休憩の施設でしかなかったが、唯一、「おお、これは、もしや?」と見つめたのが、これ。すぐさまカメラを持ち出したが、ガラスが照明を反射して、うまく撮れない。こういう時だけ、ピントがマニュアルで合わせられる一眼レフが欲しくなる。
説明がある。漢字では「青磁陰刻雷文舟形容器」だから何もわからない。英語の説明を読んでわかった。やっぱりね。Celadon Toilet Bowl Like Boat Goryeo Dynasty 10th Century
ハングルの説明をスマホで翻訳すると左上のタイトルは漢字と同じ「青磁・・・・」。右の文章で、移動用おまるだとわかるが、「こういう青磁製品はあまりない」という説明には、なるほど。
高麗国(918~1392)の舟形尿瓶だ。これが私にとって、この博物館の唯一の宝だ。
私が知っている韓国のおまるは壺型で、西洋でも同じようなな形だ。陶磁器か金属製でで、もちろん現在でもつかわれている。ところが、このおまるはたぶん女性用なのだろうが、あまりに浅いからしぶきが飛び散るような気がする。この浅さと形を考えると、女児用かもしれないという仮説を考えた。
韓国のトイレに関するyoutubeを見ていたら、イ・ビョンホン主演の映画「王になった男」に国王用の室内便器が出てきた。そうそう、思い出した。ここで紹介されている金属製の「移動用おまる」の形が半月形で、国立中央博物館の展示品に似ている姿ではある。他の資料では、携行用という説明もあった。なるほど、携帯おまるか。
おまるのドラマといえば、「ぶどう畑のあの男」(2006)だ。都会育ちの若い女が、田舎の家に住むことになった。その家にはトイレがなく、庭先の畑の一角に臭気を放つ小屋掛けのトイレがある。昼はもちろん、夜ならなおさら行きたくないと祖父に文句を言うと、「オレのように、おまるを使え」といわれて・・・という、トイレ&おまるドラマでもある。
食べる話を書こうとしていても、ついつい出す話になってしまうのは、それが人間だからというしかない。
「人間も、考える管である」(マエカワ)。
トイレの話は、これでおしまい。