454話 タイの食材図鑑だが・・・

 
『タイ食材図鑑』という本が出た。アマゾンでは買えないが、通販では買えるらしい。http://www.value-press.com/pressrelease/100875/QoHViIZK/1852
 私はバンコク紀伊国屋で買った。750バーツ。発行は横浜市のアライドコーポレーション。タイの食材を輸入している業者だ。著者名はなく、「構成・文:タイ料理ライター白石路以」となっているので、この人物が著者なのだろう。
 この本はちょっとページを開けば、アライドコーポレーションの輸入食材カタログの側面もあることはわかるが、まあ、それはいい。調味料などの加工食品の紹介があるのは、読者にとっても便利だろう。
そう思って読んでいたら、「タイ米」のページで、指が止まってしまった。
「現在、タイで作られている米は大きく分けると長粒種、ジャスミン米(香り米)、もち米の3種類」
少しでも米について知識があれば、頭の中に<????!!!>や、パソコンで打てるあらゆる記号が舞っているはずだ。この文章の後、「米のでんぷんに含まれるアミロースの含有量が・・」などという、やや専門的な記述が唐突に出てくる。その落差がすごい。
 白石氏というのはどういう人物かネットで調べると、自身のブログで「日本唯一のタイ料理専門ライターとして、2008年より活躍中」だそうです。
この、タイ米に関する記述がどれほどおかしなものか、自動車を例に書き変えてみるとこうなる。
「現在、日本で作られている自動車は大きく分けるとガソリン車、カムリ、小型車の3種類である」
まあ、こういう記述なのだ。
正解はこうだ。現在タイで商業的に取引されている米はほぼすべて長粒種で、中部以南で常食されているウルチ米と、北部と東北部で主食として常食されているモチ米の2種ある。つまり、モチ米も香り米も、両方長粒種なのだ。先ほど引用した文章のすぐ下に、「もち米(カオニャオ)も長粒種」と書いてあるから、よけい変だ。
 ジャスミン米の説明は、こうある。「タイ語ではカーオホムマリ(ジャスミンの香りの米)と呼ばれる、香ばしい香り特徴の高級種。ほかの米が二毛作であるのに対し1年に1度しか収穫できないうえ、全収穫量の約8割が輸出にまわされる」
この雑語林の39話「間違いやすいアジア」(2003)ですでに書いているのだが、二期作二毛作は間違いやすい。1年に2度米を作るのが二期作。米を作ったあと、秋から春に麦など米以外の作物を田で栽培するのが二毛作。タイでは、カーオホムマリ以外の米が、二期作ということはないだろうと思う。輸出量が全生産高の8割だかどうか、調べるのは面倒なので、正解はわからない。
「ほかの植物が育ちにくい、痩せた塩分の多い土地好むというジャスミン米」という説明がある、こういう説を何度も見ているので、長年タイの米を研究している専門家に確認をとったら、「そんなこと、ないですよ」とのこと、ちなみに、バンコクのオートーコー市場の米売り場では、高い米はカーオホムマリのチャンマイ産かチェンライ産だった。北部の生産だ。
タイ語の本なら、素晴らしい食材図鑑がでている。料理の本を数多く出しているサンデート社(ローマ字表記は、sangdad)が出した『野菜333種』と『果物111種』の2冊で、加工食品を出してほしいが、まだ出ていない。
http://www.sangdad.com/detailtext.aspx?cid=9&bid=235
http://www.sangdad.com/detailtext.aspx?cid=9&bid=236
 この2冊はチュラ大の本屋で見つけたのだが、両方買うと重いので、『野菜』だけ買った。B5より少し小さいサイズで、厚い紙でオールカラー320ページ。今、重さを測ったら1キロあった。タイ語の本だが、『タイ食材図鑑』とちがって、学名つきなので、日本語の植物事典などで再調査ができるから、写真をみて、それから調べることができる。あるいは、タイでどんな植物が栽培、利用されているのかがわかるから、写真を見ているだけで楽しい。ただ、ここにもまだ載っていないなあと気がついたのは、エリンギやエノキダケなどの日本人好みのキノコで、最近タイでも栽培が始まったものだ。新種ではないのに、この野菜図鑑にも出ていなかったのが、レンコン。タイ人が食べないわけじゃない。甘く煮て、かき氷と一緒に食べるのは、漢方の本にもある食べ方だ。図鑑には、ハスの茎の解説が写真付きで出ているのだが、根(地下茎)の写真はない。おかずとしては、なぜかまったく重要じゃないんだということもわかる。