自由に旅行に出かけられない時代になって、『地球の歩き方』は「目の旅図鑑」とでもいった本を次々と出版している。料理関連に限って書名をあげておく。
2021~2022年に出版された本だ。
『地球のかじり方 世界のレシピBOOK』
『世界の地元メシ図鑑』
『世界の中華料理図鑑』
『世界のカレー図鑑 101の国と地域のカレー&スパイス料理を食の雑学とともに解説』
『世界のグルメ図鑑 116の国と地域の名物料理を食の雑学とともに解説-本場の味を日本で体験できるレストランガイド付き!』
私のあまりあてにならない記憶では、「地球の歩き方」が最初に出したグルメシリーズは、もう30年ほど前になるだろう。それは「旅のグルメ」というシリーズで以下のようなリストになる。1990年前後という時代では、「地球の歩き方」の読者(このころは、まだ20代の男女が多いだろう)は、まだ韓国や台湾には興味はないと編集部で判断したということだろうし、インドは「グルメ」のは遠いという判断もあっただろう。こういうラインアップを見ていくと、1990年前後の、日本人の外国料理への興味範囲がよくわかる。
『旅のグルメ 香港』(1989)
『旅のグルメ パリとフランス』(1990)
『旅のグルメ タイ』(1991)
『旅のグルメ ヨーロッパ』(1992)
『旅のグルメ イタリア』(1993)
これらのシリーズは改訂新版や2版3版なども出ていて、そこそこ売れたようだ。
「旅のグルメ」シリーズのなかで、本の内容を実際に知っているのは『旅のグルメ タイ』(戸田杏子&佐藤彰)だけだ。最初の50ページほどは、タイの食文化概説と食材と料理図鑑。次のページからは料理店案内で、タイ国内の店が38店、日本のタイ料理店が10店載っている。ほとんどの日本人には、まだ「タイ料理って、どんなもの?」という時代だから、日本国内のタイ料理店ガイドを載せておくという編集方針は悪くない。この時代の日本のタイ料理店事情がわかるので、今となっては貴重な資料になっている。
戸田杏子(1941~2006)さんは、『世界一の日常食 タイ料理 歩く食べる作る』(晶文社、1986)や『タイ 楽しみ図鑑』(新潮社トンボの本、1990)で、タイに興味がある人には知られた存在だった。私が初めて彼女の名を目にしたのは、たぶん『宝島スーパーガイドアジア タイ』(1983)だったと思う。
食べ物の本がレシピ本(お料理本)と店案内ガイドとは別に、食文化を語る本が出ないかなあと、1970年代から待ち望んでいたのだが、イタリアやフランスなど一部を除けば、今もガイド中心だという出版事情は変わらない。タイ料理を日本で作ってみるということに対する時間とカネと情熱はあっても、タイ料理に関わるライターたちでさえ、タイ人の食生活の過去と現在にはほとんど興味がないようだ。
しかし、ロンリープラネットは違ったという話を次回に。